鍼灸指圧自然堂のマーク

開設20周年、安心と信頼の治療院
世田谷区祖師谷大蔵下車 徒歩2分

タイ古式(伝統)マッサージについて

1995年に数ヶ月間タイに滞在し、バンコクとチェンマイの学校でタイ古式(伝統)マッサージを学びました。帰国後、タイ古式マッサージを学びたいという要望が多々あり、一般の方や治療家を対象に各地で講義やワークショップを行いました。ここでは、その講義のテキストの一部を紹介します。

その当時、日本にはタイ古式マッサージに関する資料が全くない状態でした。今では翻訳本や専門書などが書店に並んでおりますので、下記内容はあまり意味がなくなりましたが、何かの参考になれば幸です。

現地で学んで、50人近いマッサージ師のセッションを受けましたが、テクニック云々よりも、そのリズムというか時間の流れ方の違いがとても印象に残っています。手でできることは限られていますが、気候風土・環境や生活様式によってずいぶんと異なるマッサージのスタイルに発展していくものと感心したことを覚えています。この内容はあくまでもタイ古式マッサージの一スタイルであり、絶対なものではありません。さらに興味のある方は、専門書でお調べ下さい。

沿革

17世紀頃、パーリー語でやしの葉に書かれた医療の経典にタイ古式マッサージの記載が見られたとされますが、当時の首都アユタヤはビルマ(現ミャンマー)との戦いで破壊され、経典を含む多くの古い文献が散逸してしまいました。その後、残った文献の断片が集められバンコク王朝の時代にワットポー(寺院)の壁面に記銘され今日に至っています。

*このような経緯で、タイ古式マッサージの起源についてはいまだ不明な点が多く、幾つもの説が伝わっています。

その代表的な一つは、ヨガ行者が瞑想のあと緊張した筋肉をストレッチで解きほぐしたことから始まり、発達したというものです。実際、バンコクのワットポー(寺院)ではその事を物語るような幾つかの彫像を見ることができます。しかし、セルフマッサージの発展とみるよりも、やはり心得のある者たちにより伝えられたとする方が理解しやすいでしょう。

一般的には2500年の昔、北インドからシバカ(Jivaka Kumar Bhaccha)により伝えられたとされます。シバカはブッダと同時代を生きた人物であり、また聖職にある僧たちの主治医としても有名です。医学の父と呼ばれる彼はタイ古式マッサージだけでなくハーブ・ミネラルによる治療の知識も同時に伝えています。現在も広く行われているハーバルバス・スチームバス、そしてマッサージなどの治療にアーユルベーダの影響を見ることができます。

そして、いまでもマッサージをはじめる前に行われる祈りにはシバカの存在が生き続けています。祈りの際に唱えられるオーナモ(OH NAMO)というマントラには「良き治療が行われるように、偉大なる医学の父であるシバカの力をお貸しください。」という意味が込められています。

理論

人間の体は土(earth)・水(water)・風(air)・火(fire)の四元素で構成されていると考えます。それぞれの特徴・タイプは下記のようになります。

  • 土(earth):神経、骨、筋肉、血管、靱帯、腱等の体の固体の部分を意味します。
  • 水(water):血液をはじめ、体の全ての分泌物を意味します。
  • 風(air):呼吸や体内の循環,機能的な動きを意味します。
  • 火(fire):消化や代謝のエナジーを意味します。

これらは人体を世界と同様に空、風、火、水、地の五元素で構成されているとするアーユル・ヴェーダの理論に基づいています。また、人体には72,000本もの見えないエナジーラインがあると考えられています。

タイ古式マッサージでは,このエナジーラインのうち特に重要と思われる10本に注目しています。そのラインは「Sen」と呼ばれており、その幾つかは起源は異なりますが経絡に似た流れを持ちます。

エナジーライン

「Sen」とは窓のような役割で人間のからだにエナジーを通し、宇宙のエナジーとバランスをとっています。「Sen」の幾つかは経絡に似た流れをしますが、経絡とは明らかに起源を異とするものです。全ての「Sen」は臍を起点に手、足、頭の先へと流れており、ライン上に特定のポイントを持つことはありません。これは経絡が経穴を有するのと大きく異なります。中国、馬王堆の時代と較べて見ても面白いかもしれません。

SEN(SAHATSARANGSI)の流注「Sen」の一つであるSAHATSARANGSIを例に流注を見てみましょう。

「臍を出て左足内側1行線(大腿部は鼠径部から膝蓋骨の内側上方まで、下腿部は膝を除き膝蓋骨の内側下方から内踝まで径骨の際を通る)を下り、踵をめぐり 左足外側2行線(外踝上方から径骨の傍を通り膝蓋骨の外側下方の位置まで、大腿部は膝を除き膝蓋骨の外側上方から腰までを通る)を上り臍の左方、胸(乳 中)を通り左目に至る。」

下腿部や腹部、胸部の流注は陽明胃経に似ていますが、他のSENを考慮するとこれが中国医学の経絡の影響とすることは少々疑わしいでしょう。もちろん、交易や時代背景から全く影響を否定できませんが、後の時代の影響をあまり受けずに、よりプリミティブな形を残していると解釈できるのではないでしょうか。

前面の手の流注はおおよそ心包経に近いラインを通ります。手関節のあたりで各々5本の指の方に別れて流れています。この形態はチベット医学の経典である『四部医典』に記載されているエナジーの流れに酷似しています。それぞれ参考文献を照らし合わせてみるとSENの流注は異なるものもあります。ここでは全て臍を起点とするものを採用しました。また、上肢や下肢のSENの走行もハッキリしない部分があります。

治療法

タイ式マッサージの大きな特徴は、ヨガのポーズにも似たストレッチ法と手・肘・膝・足など体全体を使うマッサージにあり、大変リラクゼーション効果の高いテクニックです。もちろんリラクゼーション効果だけでなく、治療法としても各種症状に対して有効です。

タイ式マッサージはバンコクのワット・ポーが発祥の地として有名ですが、今回はチェンマイ方式(チェンマイ・トラディショナル・ホスピタル)をベースに実技を中心にご紹介致します。

マッサージの目的

タイ式マッサージの目的は2つあります。

1.リラックスマッサージ
2.セラピーマッサージ

  • 筋肉の緊張緩
  • 血液の循環の改善
  • 自律神経の調整

「Sen」が何らかの原因で詰まることで病は生じると考えられています。それゆえ治療では、マッサージでエナジーラインを押さえ、ブロックしているものを取り去ることでプラーナの流れを自由にすることを目的とします。

基本手技

圧迫法・把握法・揉捏法・軽擦法・運動法・ストレッチ・叩打法 など

  • 母指圧迫(TP : Thumb Press)
  • 手掌圧迫(PP : Parm Press)
  • 足底圧迫(FP : Foot Press)
  • 母指輪状揉捏(TC: Thumb Circle)
  • 血液の流れを止めるテクニック(SBF:Stop Blood Flow)

基本的な流れ

ストレッチウォーキング(手掌圧迫の移動:PP)エナジーラインの圧迫法 :TPリラックス(手掌圧迫:PP)ストレッチ

日本の按摩や指圧では肩背部・腰部に対する手技が主となります。一方、タイ式マッサージでは下肢の部分のマッサージが治療の7割強を占めます。足に6本・手に2ないし3本のエナジーラインを主として治療を行うことからも足に重点が置かれていることが分かります。

一説によるとインド・ケララ州に伝わるカターカリ・カラリパヤットで行われているマッサージにそのルーツがあると云われています。タイ式マッサージを謳っているところであれば、大体の治療の流れは共通しています。しかし、北の地方はストレッチが多い特徴があり、一方、南の地方ではポイントの指圧が多用されているようです。また、古典的技法を継承しているだけでなく、それぞれの店や施術者による新たな工夫と独自のテクニックが行われています。もちろん多分に個人の技量に依ることは云うまでもありません。

注意事項

○ ストレッチは刺激が強いため次の者については注意が必要です。
(高齢者・骨粗鬆症・運動可動域の狭い部位・ヘルニア等の脊椎に問題のある者・体の緊張の抜けない者 など)
○ セラピーマッサージではストレッチを行わないこと。
○ 骨・背骨の上は押さないこと。
○ 傷口・化膿している部位・水疱や吹き出物など皮膚疾患のある部位には触らないこと。
○ 高血圧・心疾患・静脈瘤のある者にはBF(血液の流れを止めるテクニック)を行わないこと。
○ 心疾患のある者は、マッサージを受ける前に主治医の許可を得てから行うことがよいでしょう。
○ 胃腸障害(胃潰瘍・十二指腸潰瘍・胃炎など)のある者に対しては、腹部のマッサージは行わず、背中や手足のエナジーラインに対して施術を行うこと。
○ 膝の周辺は繊細な部位である為、膝蓋骨の上から押したり、圧を掛けすぎたりしないこと。
○ 疲労した筋肉・捻挫や筋のスパズム・リンパ節に対して強いTPはしないこと。
○ 妊婦の腹部マッサージはしないでください。仰臥位・側臥位・坐位がよいでしょう。
ここに挙げたものは一部です。状況に応じて対応してください。

禁忌症(注意を要するもの)

タイ式マッサージに限らず手技療法を行うときには次のような疾患・症状には注意が必要です。急性病・重篤な場合・検査が必要と思われる場合はマッサージを行わずに病院の受診を勧めることも必要です。
高熱・伝染病・静脈瘤・出血性疾患・心臓疾患・高血圧・骨折・脱臼・創傷部・急性病(中毒・炎症・感染症)・悪性腫瘍・重篤な内臓疾患・脳血管障害直後・妊娠 ほか

施術者は、クライアントの健康状態や抱えている問題について問診します。
○ からだのどこに愁訴があるか。また、それはいつ頃からか。
○ 形を比較し、左右の状態・筋肉の状態・可動域はどうか調べる。
○ 精神状態はどうか(悲嘆・感情・表情など)。
○ 急性的な疾患があるか。(伝染病・炎症・骨折など)
○ 以前、手術や大病をしたことがあるか。
○ 現在、治療を受けているか。また、薬を飲んでいるか。
○ 心臓に問題はないか。血圧は高くないか。
○ 静脈瘤はないか。
○ 胃腸の調子はどうか。
○ 妊娠していないかどうか。

タイ式マッサージは単なる刺激療法ではありません。セッションでは施術者とクライアントとの間で「気」のキャッチボールが行われます。お互い心(精神)が緊張していては良いセッションが行われません。タイ式マッサージが二人禅(瞑想)と呼ばれる所以です。

どこで学ぶか

タイ古式マッサージセミナーの様子バンコクやチェンマイには幾つかのマッサージ学校があり、外国人を対象にタイ式マッサージのセミナーを開校しています。初級向けとして、5日〜1週間ぐらいのコースが組まれています。最近は日本語で教えているところもあるようです。興味のある方は、是非、現地の学校でチャレンジしてください。

代表はタイ式マッサージの総本山とも呼ばれているワットポー(バンコク)でしょう。ここは、寝釈迦の寺院として有名であり、又タイで最初の大学でもあります。バンコク王朝の時代には、国王の擁護を受けて、そこには歴史・文学・美術・文化・医学(生理学的な治療法など)が集結していました。

寺院の壁面には人体のエナジーライン・ツボ、そして個別の症状についての治療法の図が60枚描かれています。その幾つかは色褪せていて解読不能ですが、現在でも見ることができます。

参考文献

○ THE ART OF TRADITIONAL THAI MASSAGE by Harald Brust, 1994, D.K.Printing House, Ltd.
○ TRADITIONAL THAI MASSAGE by Sombat Tapanya, 1990, D.K.Printing House, Ltd.
○ Text Book of The foundation of Moh Shivagakomarpaji,
○ Thai Massage MANUAL by Maria Mercati, 1998, Sterling Publishing Co., Inc.