呼吸とコアユニット|自律神経の調整作用

呼吸の概論

「おぎゃー」と産声を上げてから息を引き取るまで、人は絶えず呼吸を続けることになります。まさに、「息(いき)」とは「生(いき)」ということです。

吸気は胸郭を広げて肺内に空気を取り入れます。吸息筋が収縮することで胸郭が拡大し、肺が伸長します。吸気運動では横隔膜や外肋間筋が働きます。呼気は胸郭を狭めて肺内の空気を体外にだします。呼吸運動をすることで肺胞のガス交換を行っています。

肋間筋運動を主としたものを胸式呼吸、横隔膜の運動を主としたものが腹式呼吸になります。腹式呼吸では、呼息筋である腹筋群を補助的に使用しています。

東洋医学の呼吸

東洋医学は「気の医学」といわれています。気の概念については諸説ありますが、「精気」が万物を構成する基本し、精気が充実し、気が通暢することによって生命活動が維持されるとしています。呼吸とは大気中のきれいな気を体内に取り込み、体内の汚れた気を体外に排出する働きと考えます。吸入された精気は胸の中央に集められます。

呼吸法にはさまざまなスタイルがある

古来、呼吸法の重要性についてはいろいろな分野、さまざまな視点で述べられています。白隠禅師の軟酥の法や荘子の「真人の息は踵を以てし、衆人の息は喉を以てす」などはよく呼吸法を語るうえで引用されています。座禅や瞑想法を行うときに、最初に習うことが呼吸法でなないでしょうか。ここでは呼吸の働きを別の角度から考えてみましょう。

大切な試験前や人前でスピーチをするときなどに緊張するとドキドキと鼓動が速くなったり、手に汗をかいたりすることは誰しも経験することでしょう。そのような時、意識的、または無意識に深呼吸(腹式呼吸)をしているのではないでしょうか。

この行為は自律神経のバランスを調整していると言うことができます。細かいことを言うと自律神経の働きも複雑ですが、ざっくりとしたイメージでは次のように云うことができます。

呼吸と自律神経の働き

呼吸器系、循環器系、消化器系などの働きは交感神経と副交感神経により、やじろべえ(シーソー)のように普段はバランスが保たれています。交感神経は活動的、副交感神経は休息モードなどといわれるのも、それぞれが持つ拮抗した働きによるものです。長期にわたるストレスや度重なる精神的緊張、肉体的疲労により交感神経が興奮した状態が続くと、自律神経の働きが乱れ、さまざまな症状が現れることとなります。

例えば、頭痛や肩こり、不眠、動悸、眩暈、手梅核気、耳鳴り、めまい、手足の冷え、のぼせ、下痢・便秘・もたれ・胸やけ・膨満感などの胃腸障害など、、。

その改善方法の一つに呼吸法があります。

ドイツの精神科医シュルツ氏が提唱した自律訓練法なども、イメージ(暗示)や呼吸法を利用して自律神経に働きかけ、心身をリラックスさせるものです。

自律神経と呼吸にはどのような相関関係があるのでしょうか。村木弘昌先生の「丹田呼吸健康法」から一部引用します。

太陽神経叢のはたらきは腹圧と大いに関係がある。強い腹圧がかかるほど太陽神経叢の機能もさえてくる。太陽神経叢は自律神経を調整して内臓が正しくはたらくようにできているが、腹圧が弱いとその調整する力が鈍ってしまい、自律神経失調症になる傾向が高い。

 太陽神経叢を活発にはたらかせるためには正しい腹圧のかけ方を身につけておく必要がある。胸にも一緒に圧のかかるような腹圧ではだめで、必ず呼吸とともに生ずる腹圧が必要だ。

ここでは腹圧をかけることで、太陽神経叢が働き、自律神経が調整されるとしています。

コアユニットの働き

腹圧がかかるためには横隔膜、腹横筋、骨盤底筋などの主要筋・膜が関係しています。また、呼吸筋には横隔膜、内肋間筋、外肋間筋、腹直筋、内腹斜筋、外腹斜筋、腹横筋などがあります。 横隔膜は胸部と腹部の間に位置しており、安静時の呼吸では息を吸う時に収縮します。横隔膜は呼吸をするためにあるように思われるますが、腹圧をかけることも大きな仕事です。

図1.腹部断面図

腹圧をかけることの意味は自律神経の調整だけではありません。小腸に腹圧をかけ静脈血を上げ、肝臓に血液を送ることがもう一つの重要な働きです。血流というと動脈の働きだけが注目されますが、血液の量は静脈が動脈より4倍も多いわけです。そのことを考えると静脈の流れの改善が健康法の秘訣といえるのかもしれません。

呼吸筋を意識したファシアリリースは、自律神経の調整に有効な手段かもしれません。

※2015/8/18「鍼灸鶏肋ブログ」の記事を加筆修正しています。