お灸のすすめ
「お灸は熱い〜!」「灸をすえる(懲らしめる)」「お灸は古くさい」などネガテイブなイメージがありますが、お灸の歴史は紀元前まで遡るほど古くから行われている施術法です。また、だれでもご家庭で簡単に行うことができ、たいへん効果のある健康法です。
お灸の方法にはさまざまな方法がありますが、ここではたいへん気持ちの良い温灸(おんきゅう)法を紹介します。日本では江戸時代にお灸は民間療法としてたいへん盛んに行われおり、浮世絵・俳句・川柳にもお灸にまつわるものも多く見られ、その当時の様子を伺うことができます。
芳年の風俗三十二相(第八図) には「あつそう」という題で背中にお灸をすえている図が描かれています。胃の六つ灸あたりでしょうか。
- 隠れ家や猫にもすえる二日灸 一茶
- 二日灸酒飲む膚の美しき 虚子
- ありし日の母のごとくに寒灸 不逸
幼少の頃、私の祖母もよく背中にお灸をすえていた記憶があります。昔は今のように、いろいろと薬もなく、よほどのことがない限り医者にかかることもなかったようですが、医食同源といわれるように食事・民間薬、養生法などの知恵が生活の中に自然と取り入れられていたように思います。
日本人は風土や生活様式から脾胃が弱いと云われます。東洋医学では直接脾臓や胃である内臓を指すのではなく、消化器系の機能・働きという意味でとらえています。それ故、下痢や腹痛、食欲不振などの胃腸障害には脾胃を傷つける寒湿(寒さや湿気、冷たい食べ物や生もの)を避けることが大切であると考えます。温泉もいいですし、お灸も養生法としてはもってこいです。
艾(もぐさ)について
もぐさは何からできているのでしょう。
もぐさは蓬(よもぎ)の葉の裏側の灰白色の柔毛から作られます。よもぎはキク科の多年草で、町中の道ばたにもみることができますし、草餅にも入っていますのでたいへん私たちに身近な植物です。古来、中国ではよもぎの他にも幾つかの植物が使われていたようですが、よもぎの燃焼温度や成分、手に入りやすさなどの諸条件により灸にはよもぎを使うようになったようです。
よもぎの成分にはチオネールという精油が含まれており、燃えると煙と共に独特の芳香が漂います。まさに自然のアロマテラピー、リラックス効果も抜群です。生の葉には止血・消炎・解熱・利尿・防腐・鎮痛などの薬効もあります。昔は、この匂いが魔よけとして用いられていたようです。
日本の産地は伊吹山(滋賀県)や標茅原(栃木県)が有名です。灸法によってもぐさも使い分けるのですが、下の写真のように夾雑物が少なく淡黄白色で手触りの良いものを良質とします。温灸用はそれほど良いもぐさでなくても大丈夫です。
上質もぐさ
温灸用もぐさ
生姜(しょうが)灸のすえ方
①なるべく丸く太い生姜を用意します。
※均一の方がたくさん作ることができます。
②厚さ6mm程の輪切りにします。
※厚さが薄いともぐさが燃えたときに熱くなります。
③温灸用のもぐさを親指大に丸めてやや三角錐上にし生姜の上に乗せます。
もぐさは固めずにやわらかく丸めます。
④皮膚の上に乗せて、点火します。
熱くなったら、移動するか取り除きます。
複数すえる場合は、6cm以上離して行います。
⑤各つぼに3〜5分程行います。
手元に灰皿を用意して、換気を忘れずにしてください。
火を消すための水も用意しましょう。
市販の点灸のすえ方
①ドラッグストアにも簡易的なお灸が販売されています。上記の左は筒状のタイプ、右は下にシールがついているタイプになります。
②まず、お灸をすえる位置を決めます。ここでは、三陰交のツボにお灸をすえてみます。
③慣れないうちは、マジックやペンなどで印をつけておくとよいでしょう。
④お灸の下についているシールをはがします。
⑤つぼの位置にお灸をのせます。
⑥次にお灸に火をつけますが、ライターを使用する場合、お灸から離れた位置で点火してから火を付けてください。時に火力が強く、やけどをする事があります。注意しましょう!
また、手元に灰皿を用意して、換気を忘れずにしてください。火を消すための水も用意しましょう。
⑦熱く感じられたら、周りを押さえると熱さが軽減します。始めのうちは無理をせず熱く感じたら取り外しても大丈夫です。
直接、皮膚につかないようにできていますが、肌の弱い人は輻射熱でもやけど(水ぶくれ)をすることがあります。様子を見ながら行ってください。
⑧熱さが感じなくなったら、取り外します。念のため、お灸は水につけてください。
注意
- 実際に行う場合は個人の責任で行ってください。
- 皮膚の弱い方は、かるい火傷をする場合もあります。一度に行わず、皮膚の発赤の状態や様子をみながら行ってください。
- お風呂に入っているような気持ちの良い熱さですえましょう!
代表的なつぼ
(1)中かん
みぞおちとへその中間に取る
【主治】胃腸虚弱や下痢など胃の働きの弱いものによい
(2)関元(かんげん)
へそ下、指4本分のところに取る
【主治】元気の源・婦人病にもよい
(3)足三里(あしさんり)
立て膝にして、膝の皿の外側のくぼみから、指4本下、押すと響くところに取る
【主治】諸々の慢性疾患・膝の痛み・足の疲れ・胃腸の働きを調える
長寿の灸
関元と足三里に就寝前に3〜5分程温灸を行う
(4)大椎(だいつい)
頚を前にかがめてできる大きな骨(第7頚椎)の下にとる。
【主治】頚の強張り・風邪のひきはじめ
(5)膈兪(かくゆ)
肩甲骨の下のライン上で、中心から約3〜4cm外側に取る。第7・第8胸椎棘突起間の外1寸5分に取る。
(6)肝兪(かんゆ)
膈兪(かくゆ)から指3本下に取る。第9・第10胸椎棘突起間の外1寸5分に取る。
(7)脾兪(ひゆ)
肝兪(かんゆ)から指3本下に取る。第11・第12胸椎棘突起間の外1寸5分に取る。
【主治】(5)(6)(7)を胃の六灸といい、胃腸の働きを調える。
(8)腎兪(じんゆ)
腰骨を結んだラインから上に約4cmほどの位置で、中心から約3〜4cm外側に取る。第2・第3腰椎棘突起間の外1寸5分に取る。
【主治】腎は先天の元気とも云われるパワーの源。腎疾患・生殖器疾患・腰痛など
(9)三陰交(さんいんこう)
内くるぶしの高いところから指4本上骨のすぐ後方にとる。
【主治】女三里とも云われ、婦人科疾患によい。
(10)涌泉(ゆうせん)
足の裏側で、指を曲げると一番くぼむところに取る。
【主治】疲労回復やのぼせ
(11)至陰(しいん)
足の小指の外側、爪の根本2〜3mmの所に取る
【主治】逆子の施術によく用いる。
お灸に関するトピック
こちらから(鶏肋ブログ 灸法)