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開設28周年、安心と信頼の鍼灸院
世田谷区祖師谷大蔵下車 徒歩2分

鍼灸仮名読十四経治方 上之巻

津山彪編次

凡例

一 此編や衆書中の最も良なるものを。採りて集下の巻とす。朝鮮の許任が説に拠るもの多し。間また積歳の経験を載す。
一 国字を以て直読に記するものハ。読易からめんが爲なり。童蒙の行に岐路なきを示す。
一 篇中僅に薬物を載するものハ。針灸の及バざる処を補もの也。敢て自分窮るにあらず。只寸心棄るに忍ざるか爲なり。覧もの若し能これが意を加へ。方を需め証に対セバ効を収むるに小補あらん。
一 ○置は門中の諸症を頒。其急に臨んで見易からしめんが爲なり。△置ハ愚案なり。蓋し皆拠あれハ也。混見事なかれ。
一 編中口授口傳というものハ。敢て秘するにあらず。耳提セざれハ諭しがたし故に口授といふ。
一 死を起し生を回すものハ。兪穴にあり兪穴刺ざれハ効なし。故に下巻に図翼を載す。腹脇手足骨度の寸尺を記して。兪穴の分寸を知しむ。全く骨度正誤の図説に従なり。

巻之上 目録

(1)鍼灸之大意(2)中風門(3)中寒門(4)中暑門(5)中湿門(6)火症門(7)瘧疾門(8)嘔吐門 (9)積聚門 (10)水腫門(11)疝気門(12)淋病門(13)頭痛門(14)心痛門(15)腹脇門(16)脚気門(17)眼目門(18)口歯門(19)咽喉門(20)耳病門(21)中毒門

巻之下 目録

(1)銅人形総図(2)癰疽門(3)騎竹馬穴法(4)腸癰門(5)疔腫門(6)蒜灸門(7)附子灸法(8)石癰門(9)丹毒(10)蟠蛇癧(11)大小便(12)腰背門(13)咳嗽門(14)膝脚門(15)手臂門(16)鼻病門(17)痢疾門(18)痔疾門(19)労?門(20)四花穴法(21)小兒門(22)五癇門(23)婦人門(24)風癩門(25)急死門(26)草度方(27)禁針穴。歌(28)禁灸穴。歌(29)針灸吉日(30)針灸忌日

(1)鍼灸之大意

内経に曰く大に労ると刺ことなく飢たるを刺ことなく大飽を刺ことなく酔たるを刺ことなく驚くを刺ことなく怒る人を刺ことなしと。又曰く形気不足せるもの或ハ久しく病て虚損せるもの若し針を刺ときハ重て其気を竭と。又曰く針入ること僅に芒のごとくなれとも気のいづること車軸のごとしと。
△是いわゆる針の瀉するありて補ひ無れバなり。凡灸をするにハ平且よりして午後に及ぶときハ穀気虚乏たるゆゑに大に冝し。須からく日午までに施すべし。大概脈絡ハ細き線の若くなれバ竹筋頭をもつて?べし。たでたで其脈に当て灸をすれハ亦よく疾を愈すべきなり。是を以て四肢には伹その風邪を去なれば灸多く七壮より五十壮までにして止べし。年の数に随ふに過ることを得ざるなり。然れども臍の下の久冷疝?気塊積気の証にハ艾?の大なるほど宜し。故ゆへに腹脊ハ五百壮を灸すべし。唯巨闕鳩尾の穴の如きハ是胸腹の穴といへども灸して五十壮を過さずして止なり。若し艾の大?を以て多く灸するときハ人をして永く心力無らしむべし。頭頂の穴も亦多く灸するときハ。精神を失す臂脚の穴に多く灸せば血脈枯渇て肉痩毛枯て手足力なく又精神も失なるべし。蓋し穴処に浅深あり。もし浅穴に多く灸するときハ。必筋力を傷る故ゆへに三壮七壮に過ぎずして止なり医者深く慎て鍼灸を施べし必ず忽にすべけん乎

禁忌
○ 生冷 鶏肉 酒麺 房労等の物

(2)中風門 かぜにあたる

△夫中風の証に於る劉河間ハ火を主とし。東垣ハ気を主とし。丹渓ハ湿を主とす。後世に至て種々の論弁ありといへども。今これを載て益なし。故に略す。脈ハ大法浮沈なるものハ吉なり。急疾にして大数なるハ凶し。
○中風寒を夾むときハ浮遅を帯ず。暑を夾ときハ脈虚す。湿を夾むときハ脈浮にして?なり
○卒中に言いわず。肉痺れて人事を知ざるにハ神道の穴に灸すること三百壮すれバ立どころに差べし。
○遍身麻れ語言ことかなはず。口眼斜ミ?つりなどするにハ。間使・大迎・三里・承漿・合谷等に灸すること二十一壮づつ十五日を約して治べし
○遍身痒くして虫の行がごとく。但快々く忍びがたく或ハ呵び?り眼口斜む等には。合谷・三陰交・曲池・神門に針入ること七部。而して後肘の尖に灸すること七壮神効あり
○言舌蹇渋して半身遂はず。或ハ左右ともに??し久しく愈ざるにハ委中の穴に三稜針を入ること二部。悪血数升を出して治べし。若くハ軽症のものにハ風市・ 絶骨・三里・曲池・肩井・列缺・委中等に灸すること毎日五十壮づゝ七十日を約して治ること神効あり。
○中風眼を弔視語言こと能はず手足屈伸なからざるには背の第二椎と五椎との上に七壮艾?の大さ小さ棗の核乃大さにして?べし神効あり。
△中風の証内傷に因ものハ外の風邪にあらず多ハ労役することの甚しく而。真気を虚し。或ハ憂へ怒ことの積で其気を傷るもの。卒に目眩いて倒れ手足?痺れ眼 口?り斜ミ。舌強りて語言がたき等ハ必しも針術を数ヽ施すべからず。反て其精神を竭し。命期を促るに至る慎むべしまた肩井・曲池・三里・絶骨・風市・列缺 等ハ中風の妙灸穴といへども虚証の中風には多く?べからず三七壮を期とし。但薬液の中を補ひ気を益を見とめ。或ハ防風?活天麻半夏木香等の内より順多して 手足に真陽の回を候ひて後多く針灸すべし深く虚實を認て施ざれバ害多し慎むべし。

(3)中寒門 かんにあたる

△脈緊?なるものハ陰陽ともに盛なり。法に針を用ひて経絡を通ずることなかれ。薬を用ひて当に汗すること無るべし。汗セバ命を傷る。医忽におもふべからず
○五臓に寒気中りて口禁じて語言ことなりがたく手足強り冷気刺がごとくに痛ミ。また臓毒下陥し泄痢腹脹大便あるいハ黄色あり或ハ白く或ハ黒く又ハ清穀あるにハ神闕・天枢に灸すること七壮。而して後参朮乾薑の温剤を投して効を奏こと神のごとし
○寒気湿気に因て干さるにハ敢て艾火の及べきにあらず。参朮附薑の類に有ずんば効を斂ん

(4)中暑門 あつさにあたる 附り霍乱上吐き下くだる

△凡中暑の疾汗し下べからず但熱を解し小便を利するを肝要とす或ハ其甚だしきハ即ち死セんとす忽ち口禁じて語言こと能はず身体反張して四肢動ざるなり此時芭豆も腹中に内ことを得ず瓜?も咽に下ざれハ倶に効なし豈に艾火尊ことを知らんや急に両乳の上に灸すること七壮妙効在り而して後。其脈虚微なれバ附子剤を施べし若し弦?なれば桂枝白朮猪苓沢瀉の類にて胃中を暖め小便を利すべし自然に身の熱しも口の乾きも咽の渇きも小便の赤く渋り大便の瀉も止て治するなり
○中暑霍乱にて上吐セず下瀉セず悶乱はなハだしく胸腹大に疼んで苦楚忍びがたきにハ合谷太冲神闕に七壮づつ火を下して忽ち差ること妙
○又方臍の上三寸に三壮三焦兪合谷太冲等に針して後。関衝に三稜針を入ること一部。血を出セば立どころに差
○転筋といふて筋動き攣急。あるひハ疼ミ。神にこたへ。或ハ上吐し下瀉りて霍乱するにハ先急に委中関衝を刺して血を出すべし。しかうざれハ転筋腹に入りて。心を衝遂に死にいたるものなり。医忽におもふべからす
○霍乱すべて心満て腹痛ミ食を吐き腹鳴ものなり中?内関関衝より皆血を出して効を奏る
○暴に大便泄瀉するにハ間使の穴に灸すること七壮若し愈ざれハ更に?べし
○霍乱にて已に死し少にても若暖りあるものハ承山を治すべし此承山の穴所ハ脚の?腸の中央に当て分肉の間だ脚跟を去こと七寸にあり是を起死の穴と名けて死人を起すの妙穴所なりこれに灸すること七壮忽ち蘇ること神のごとし
○ 又方塩を臍の中に填めて其上に灸すること二十一壮および気海の穴に百壮奇効あり

(5)中湿門 しつきにあたる

△脈浮にして緩なるハ湿表にあり沈にして緩なるハ湿裏にあり其傷るるや一身ことごとく痛ミあるひは身重く腰いたミ手足倦怠して歩行なりがたく悪寒発熱吐瀉しあるひハ腹痛ミ身体大に重くなるものなり
○曲池陰陵泉合谷肩井肝兪膈兪等に針すること五部気を引て経脈に通べししかれども能疾を治すること能はず宜しく独活羌活防風蒼朮陳皮桂皮の薬を服して表発して経を通じ気を泄すべし速に効あり

(6)火症門 うちのねつ 附リ発熱

△火症の疾たるや一身ことごとく熱し肌へ燎がごとく脈多くハ浮にして洪数其発するや虚火の上焦に鬱するものなり又実火なるものあり其脈沈にして実大これは冷たるものなどを多く食し陽気伸ずして致す所なり
○上焦燎ごとく頭面に瘡を生じ風熱にて腫痛にハ中?関元石門期門等に針すべし
○風熱にて歯痛ミ齦き腫るにハ其痛むところに針して気を洩らすべし
○肝経に血少なく脾胃痩れて肝火動き熱の往来するにハ天枢痞根の穴を治べし
○三焦の実火内外倶に熱するにハ三稜針にて委中を刺し血を取りて治す

(7)瘧疾門 おこり

△凡瘧一日に一次午前より発するハ邪気陽分にありあるひハ日を隔て或ハ三日を隔てあるひハ午後或は夜に発すハ邪気陰分に入ものなり又日夜に乱れ発するものハ気も血も倶に虚するなり
脈弦数ハ多くハ熱弦遅なるものハ多くハ寒と心得べし
○寒多く熱少く口苦く咽乾き大便秘し小便赤く渋り手臂より発ものハ間使三間に三壮妙なり
○頂頭きのあたりより発するものハ痛の日に当て未発ざるまへ百会大椎の尖に灸三壮一時に焼て忽ち治す艾の大さ棗の核ほどに作るべし
○寒冷なるものを多く食し脾に滞り鬱して瘧を発しあるひハ脾胃虚しまたハ弱き人の患ひたるにハ神堂に七壮絶骨に三壮
○?瘧に痰水および?血等塊りをなして腹脇のあたり脹痛むにハ月の三日と二十七日とに期門に針して後に灸すること二十一壮神効あり

(8)嘔吐門 附翻胃 呑酸 吃逆

△凡嘔吐する症ハ陰気上へ逆り陽気の勝ざるより致すものなり又心腹痛んで嘔するなりあるひハ寒熱より致すあり或ハ痰飲の腸胃に客となりて致すありこれハ病なりて後嘔するなれハ其主たる疾を療すれハ嘔ハ自ら止む医者切に其因て来す所を察セんずんハ何の効か有ん
○下閉て大便セず気上へ逆セて嘔吐するハ関格の症といふ宜しく四関の穴を針して幾次も瀉すべし
○腹中に冷気を含んで嘔吐するにハ中?内関に針して陽気を揺かし三陰交に針を留めて呼吸十二息大に神効
○乾嘔するにハ尺沢中渚隠白章門間使乳の下一寸等に灸三壮
○気膈に否へて食進がたく背の七九痛には膈の兪?中間使に三壮
○吐セんとして吐せざるにハ心兪
○嘔吐忽ち寒くたちまち熱して心神煩ハしきには中?商丘大椎中衝絶骨
○虚人の常に食進ミがたくして嘔の気味あるハ背の第七八九椎闊き両方に灸五百壮即効あり
○噫気呑酸ハ胃中の熱と膈上の痰相逆ふて清水を嘔吐す中?膈兪に灸すべし
△胃口冷へ手足ともに冷へ?逆するにハ中?に灸すること二十一壮大に効あり然ども是等の症ハ針灸の能治すべきにあらず丁子乾薑桂枝良薑柿蒂の類を温服して良効あり湯液に因て針灸を与ふべし然るときハ愈ざるの病なからむ

(9)積聚門 しやくつかへ

△積ハつむと訓じ聚ハあつまるの義にして気血の何日となく積て塊となし或ハ集り結ぼれて腹中こころ好からぬの名なり五積の差別ありといへとも針灸の治療多くハ同じ
○痞悶といふて心下快く脹こころふ覚へ按じて痛なきを痞塊といふ専ハら痞根の穴に灸すべし此穴所ハ背の第十三椎の下も左右へ闊くこと各三寸半多くハ左辺に灸す若左右ともに塊あらバ左右を焼べし毎日二百壮より三百
○臍下に結塊ありて腕の大のごとく或ハ盆のごときあり新久を問ず関元間使各々三十壮、太冲大谿三陰交合谷等に灸三壮腎の兪に年の壮病者若し一月を焼ハ果して病の塊り消散すべし
○疼積にて塊なさば肺兪に百壮期門に五壮背の第六椎の下七椎の上。骨をはづして右辺に?べし小き棗の核の大にして二十一壮神効あり
○奔豚気といふハ小腹痛積なり是ハ腎水の虚より発の積にして二種あり一ハ奔豚として動気下より発し中?上?と敲上るあり倶に腎の積なり脇章門に百壮。腎兪に年の壮。気海に百壮。期門に三壮。独陰に五壮。太冲。大谿。三陰交。田根に各々三壮約するに五十日を焼て治すべし若しくハ軽症のものハ二十一日に治す
○腹中の積塊。上へ行るより中極に百壮。また懸鍾の穴に三壮。これハ第十二椎の節の下にあり。伏して取るべし
○積気熱を貯ふときハ。動気臍の傍より生じて。心先へ上り。気聚りて塊をなし。脊の第七九の椎より。或ハ腰を周りて鬱重し。或ハ痺れ或は咳嗽出て大便難き 症あり。腎兪に年の壮。肺兪。大膓兪。肝兪。太冲等に二十一壮。三十日を焼て。腹中に脹悶を覚へざれば。日に百壮より二百に及ぶ。数日にして灸一万壮に至れバ。積根すでに絶て。生涯積の患ひなし
○積聚に五種あり。伏梁。息賁。肥気。痞気。奔豚。いづれも倶に臓病に属す聚は腑病を主る。皆艾火を用ひて効あり。唯其急に発して腹いため。及び心下を攻るときハ。鍼術を施し急に治すべし。天枢。章門を刺ことに二寸。即効あり

(10)水腫門 うきやまひ

△夫水腫の疾。其症多しといへども。一大要領ハ。虚実を見て治すべし。針灸も効を奏こと多しといへども。其治法ハ食を減じ。塩味。肉味を禁ず。能其方症を対して平易の行気利水の剤を投ずれバ。通身鼓のごとく。腫脹するものも必連々に験を奏る。然れども虚腫の類ハ。脾胃大に虚乏。水を制すること能はず。精臓。虚冷から致すなれバ。決して針灸を用ゆべからず。其治法ハ。大抵附子の入たる薬方を証に対し。照して与ふべし。易く治せず。元脾胃の気和セざるより。水皮膚に妄行して。小便利セず。遂に浮病となる。方書
に云。水分の穴を針して。水盡れバ斃るとあり。然れども浮腫甚しきときハ。飲食なりがたし。腹に太鼓を抱に似て気促しく。神悶へ乱れて巳に死せんとするあり。其時急に救べし
○三稜針にて水分の穴を刺し。水を出し取こと三分の二つなり。脹下りて臍の辺にいたり。未だ水を渇すに至らず。急に血渇の末。又は寒水石の末を針の穴へ塗付れハ即ち塞で水止なり
○浮腫の人。陰茎。陰卵倶に腫るものなり。睾外腎に針して多く水を出セば安し。水絡をミて刺ざれバ水能出がたし
△水絡の観候口授。若し初心の輩ら妄に鍼し過て。血絡を刺バ大に血を出し。止べからざるに至る。恐るべし。慎むべし。血絡の診候。口授
○惣身及び面も手足も浮き脹て。洪大なるハ内踝の下。白き肉の際に灸すること三壮。能脹を銷し小便を利す
○水腫腹脹たるにハ。水分。三陰交に灸百壮。陰?に七壮
○手足面目のあたり浮たるにハ。人中。合谷。照海。絶骨。下三里。曲池等に針すること五部。又中脘に一寸。七日にして脹銷し神安して食を進む妙。後艾火を用ひて再び発セざるあり。口伝

(11)疝気門

△疝に種々あれども。大抵寒熱の二種に差て治すべし
○疝気忽ち逆りて。大に心脹を急痛め。悶苦んで呼吸通りがたきの急なるにハ。足の左右の甲根に。三稜針を入ること一部。血を取べし。太冲。内太冲に三壮づつ。独陰に五壮神効あり
○疝毒伏々然として。動気を発し。上?よりして。鳩尾に逆り。遂に胸を突て。気促しく。将に死セんとするにハ。急に麺粉水に練り餅のごとくなし。臍の四畔 に置き炒塩を衝め厚さ五部ばかりになし灸すること百壮より二百に至る。艾?の大さ。小き棗の核ほどに作るべし。微し温たまるを以て度とすべし
○陰頭痛には太敦。太冲。腎兪。陰交に灸す
○陰戸痛には。曲泉。気衝を治すべし陰腫て挺出セば。曲泉。気衝。陰?。崑崙。太敦等に灸二十一壮づつ。妙効あり
△疝の病。十に七八は寒に属す。烏頭。附子。桂枝。羌活の類能治す。針灸は其間に突出して効を奏る

(12)淋病門 及び遺尿 遺精 白濁

△淋病は五臓の不足より。膀胱に熱を貯ふて致すと。湿毒の熱蒸来りて。水道通ゼす。淋瀝て出ず。或ハ尿水豆の汁のごときあり。或ハ沙石。或は冷淋りて膏蜜のごとく。或ハ熱し淋り。又は血出あり
○絶骨。太冲。気海。中極に百壮。曲骨にハ七壮より二十一壮に至る
○老人気虚して淋病を患ふには。脊第七九の椎の闊き一寸半。各々二十一壮
○小便赤く渋り閉て通ゼす。及び熱淋。血淋。或ハ酒の後。房事を行なひて病たるにハ。気海に二百壮と臍下一寸半に灸五十壮。手の左右の。曲池に五壮。五日を約して治すべし
○知ず精の遺るあり。夢見て遺るあり。腎兪に二十一壮。陽関に五壮
○遺尿には気海。石門に百壮。八?に五十日約するに。十日を焼て治べし妙々。然れども飽食するときハ治せず。食すること日に一合半。食を減じ胃嚢を細くして後。灸すべし
△余常に瓜?を用ひて一吐セしめ。胸膈を踈し後。食を減ずること七日。體多微しく痩らるを見て。烏頭。附子。破胡紙の類を服さしめ。屡々面眩に似たるときハ。治を得る。瓜?を与ふこと増減あり。病者の面色を照して用ゆ。口授
○溺道より白き濁たるもの出るにハ。照海。期門。陰?。腎兪。三陰交。皆灸すること二十一壮。神効あり

(13)頭痛門

△凡頭痛を治せんと欲セば。手足の諸陽経を刺べし。針ハ気を引に功あれバなり。譬バ湯の沸を止むるハ。釜下の薪を抽がごとく。然れども痰厥の頭痛のごときハ。気を引ことあたハず。必ず頭部の穴に灸すべし。即ち能痊るものなり。何んとなれバ艾の性ハ熱するものゆゑ。之に灸するときハ其熱をして。発散セしむなり。或ハ寒ずるものに灸を施すときハ。其寒をして温め和すれバなり。又諸陽経を瀉セんと欲する則ハ。先百会の穴に針して。必ず諸陽の熱気を引て下に行しむ ものなり。譬バ硯滴の上孔を開がごとし。然ども熱極めて気を下すこと能ざるものあり。即ち三稜針を以て其頭部の血絡を刺して。血を棄ること。糞のごとくす れば神効あり
△頭痛其因て来するところ多端なれバ。一々挙て諭しがたし。大抵ハ承満。梁門。関門を幾たびも針し瀉して効あり。唯其頭痛するところの経を考へ。前後左右に随ふて。手足の経穴を刺べし。

(14)心痛門 併に胸痛

△心痛多くは気鬱に因て熱をなし痛をなす。心真痛の如きは。針灸薬?の能治すべき所に非ず。其発するなり。心胸卒に疼痛して悶へ苦しミ。或ハ汗大に出。或 ハ手足の爪の甲倶に皆青色。其急なること夕に発して朝に死す。之に類する症あり。針灸薬の及ぶ所なれバ。医の預かるところなり。其一二を知して初心に便す
○心微しく痛で汗出苦しきあり。若早く治せざれハ真の心痛にいたる。倶に急に三稜針を用て。神門。列缺。間使。大敦を刺て多く血を取棄べし
○胸痛んで冷き酸き水を吐くことあり。尾窮骨に灸五十壮。足の大指の内。初の節の横紋の中に三壮。即効あり
○痰厥せて胸痛ことあり。或ハ胸腫ともに痛には。背の第三椎の下。四の椎の上に近きを量り。背骨の上より両傍へ各々四分に灸二十一壮より五十壮に至る。立ところに愈。奇々妙々の神効あり
○年久しく胸痛には。足の拇指の爪の甲の根もとの當中に灸七壮。男ハ左。女ハ右り。章門に七壮。太冲。独陰に五壮。立どころに愈。もし或ハ愈ざれバ更に焼べし
○腹中に陽気微くして。冷気心を衝て傷め。或ハ痰沫を嘔し。大便頻りに利せんとして。快く通セず。或ハ腹中倶に痛には臍の下六寸。両傍の闊き各々一寸づつに。灸すること二十一壮
○又方蝋縄を以て病人の口の両角を一寸となし。夫を三摺になし。三角とし。一角を以て臍の心に置き。両角ハ臍の下に垂しめ。両傍の端に点記を附て灸二十一壮。神効あり。立どころに差るなり。
△是病急に救ざれは三四日の中に死す。大病の後。或ハ老人などに是症を発セば一両日に死す。急に丁子。乾薑の類を服さしめて後。艾火を施すべし。必ず針を 刺すことなかれ。針に補瀉ありといへども。実は瀉に効あり。瀉するときハ気を脱す。予常に門生に示して針を禁ず。針もし腹内に下りて痛忽止ことあり。忽死す恐るべし。丁子。乾薑。茴香の咽とに下りて回陽する也。甚速かなり
○心痛にで涎て沫を嘔き吐こと。数日にして愈ざれバ必ず三の虫あり。是蟲を取れハ涎の多きも止。心の痛も止なり。上?に灸すること七壮。十二日にして治す。三蟲を取の法。口授
○胸中へ?血逆り滞り痛あり。診候口伝。下三里。内関。神門。太淵に鍼して即効あり
○心痛んで口禁ずるにハ。期門に三壮。陰卵の下。十字の紋に五壮

(15)腹脇門

△夫脇腹の痛患るや種々あり。実痛のものハ。腹硬満にして按して痛ぞ。死血ハ脇下に引き痛む。声なセバ痰。乍ち痛ミ。乍ち止ハ熱。綿々として増減なきハ寒なり。宿食ハ大に腹痛すれども瀉して後に痛ミ減ず。虫積ハ痛甚しといへども。食するときハ則止無。飢ときハ痛む。左の脇に塊ありて痛む所を移ざるハ死血右 脇ハ塊あるとも多くハ食積なり。治法ハ一渠しかたしといへども一二を載ぞ。
○胃?痛には。肝兪。脾兪。下三里。胸兪。太冲。独陰。両乳の下各々一寸に灸二十一壮
○冷物と熱物と調和せずして臍を遶り。疼絞るにハ。天枢に一百壮。気海に二十一壮即効あり
○腹大に脹り堅くして身悶し。臍及び小肚筋ばり堅きは。水分。中極に各々百壮。腎兪に年の壮。太冲三陰交中?等に。毫鍼すべし
○腹脇手足背諸所へ流注して其痛刺がごとく忍べからざるあり。皆?血の清血に誘引て流れ注ぎ。暫く所を定て輒ち移り更るなり。宜しく三稜針を用て其痛む所々に随て刺こと四五穴。血を取捨ること糞のごとくすべし神効あり

(16)脚気門

脚気の論ハ孫真人盡セり外台に曰く飲食の毒自然に丹田に滞りて致すところなりと
△予是を以て為次ぐ。独り脚気の繁華に多きハ厚味の物の毒するがゆへなり穀醤塩噌の類ひ都て美味に制しなれバ其味厚くして胃中に入り。鎖散し易からず素よ り動作少なき人に多きハ厚味。胃中に欝濛して食毒自然に積ミ動気を生じ。疾となるなり。因て来するところ。胃欝にあり。故に浮腫するもの。十に七八。治法ハ浮腫の有無にかかわらずして。麦飯赤ふ豆を食セしめ。塩を禁じ。飽食を禁じ。胃力を弱らしむを。一大要領とす。
麻黄。独活。羌活。防已。石膏。大黄の類方を選ミ方証相照して。汗を多く取り。胃気を疎し。水道を利するを肝要とす。臍下の動気止ときハ病。治したる也。若し汗多亡陽セバ。医の失りなり。汗多亡陽を恐れて汗多セざるものハ。下医なり
○中?に針して胃気を洩泄べし。風市。伏兎。膝眼。三里。上廉。下廉。三陰交。絶骨。皆灸すべし。腰骨より上ハ灸を禁ず
○鶴膝風には。中?。委中。風池等に針す効あり
○足の掌の痛にハ崑崙に針す
○脚ところところ腫起りて大銭のごとく。或ハ長く腫て熱し痛ミ。或ハ流注して所を移。年久しく治セず膿ざるハ。?血の経絡に溢れ流れたるなり其血絡を刺して血を取捨ること糞のごとく神効なり

(17)眼目門 めのやまひ

△夫眼目ハ血を得て能視こと明なり。血の眼を養ふ大に過ることあるか。又ハ足ぬことあるときハ。眼病となる虚眼ハ精耗て眼の養精不足して病るなり。針術。効む多し
○眼?の上下に青き黒きあるハ。尺沢に針して血を出せば神効
○眼の晴痛んで涙なきハ。中?。内庭に久しく針を留て即瀉すべし
○瞳子の突出したるには湧泉。然谷。太陽。太衝。合谷。百会。上?。次?。中?。肝兪。腎兪。に針して神効あり
○大人小兒の雀目にハ。肝兪に灸七壮。次に手の拇指の甲の後ろ第一の椎の横紋の頭に。白き肉の際に灸一壮。即効あり
○風目にて?の爛たるにハ。太陽。尺沢に針して血を棄ること糞のごとくすれは神効あり
○目に白き翳のかかりたるにハ。先その白き翳膜出る所を看わけ。経に随ひ日を遂ふて。気を通ずるときハ神効あらざることなし

(18)口歯門 併に唇舌

経に曰く脾気ハ口に通ず口臭きハ内熱口乾き或ハ瘡を生ずるハ脾熱に属すと唇舌牙歯倶に其因て病ところ異りといへども脾熱胃欝に属するもの居多。故に部門を領ざるなり
○歯痛には疼痛歯に灸七壮即効あり。然れども慎しんで灸を加ことなかれ。必附骨疽を患なり
○上歯の疼には下三里に灸七壮効あり
○下歯の痛にハ合谷に灸七壮奇効あり
○又強く歯いたむにハ急に丁子甘草の煎汁を?んで即効あり。又方麝香を痛む歯に附て妙効
○虫喰歯にて瘡を生じ腐き爛るるものにハ承漿に灸すること七壮妙なり
○口噤ばり。牙車開ざるにハ。上関。頬車に五十壮神効あり
○重舌舌強ばり食すること能はざるにハ。神門。隠白。三陰交。交々針灸して効を歛む
○口中血出るにハ。上星に五十壮。風府に針三部
○口中舌ともに白して娥口のごとく瘡を生ずるハ大抵血熱の致すところなり。承漿。營宮を治すべし。或ハ桑の汁を塗りし忽ち治すべし
○口中。膠のこと粘るハ大谿を治すべし
○唇。乾燥さけて繭のごとくなるハ多く陰虚火動に因る。迎香。虎口に灸すべし

(19)咽喉門

△夫咽ハ物を嚥。喉ハ気を候がふ気喉穀咽とハ是也。若し熱府の寒冷なる則は咽門破れて声嘶るなり
○咽喉腫ずして熱塞し。呑飲鼻より還り出るにハ。然谷。合谷。併に久しく針を留めえ即ち瀉べし
○喉腫て胸脇の下。支滿るにハ。中渚。絶骨。内関。合谷。神門。尺沢皆倶に針して効あり
○単蛾にハ天窓の穴。頚の大筋の前。曲頬の端し陥なる中なり針を以て深く患ふ。あたりの喉の内に刺こと一二寸ばかりに至る。暫して即ち出す神効あり
○双蛾にハ天窓。尺沢。神門。下三里。大谿併びに針すべし。少商及び大拇の爪の甲の後根に三稜針を刺こと三次。若し病急ならバ一日に再び針す大に妙
○一切の実火にて咽腫れ痛ときハ其疼処に針して幾たびも瀉すべし
○喉痺腫疼て言語ことならざるにハ三稜針にて桃げ破り血を出すべし。腫ハ破り痛まハ針して数々血を取るべし

(20)耳病門

経に曰く。耳塞り噪ものハ九窮通ゼざれハなり心神最も窮に通ず故に心病ときハ先耳噪で鳴り遠声聴ことあたはず
△或ハ又精虚して耳聾れ鳴あり又虚火逆り痰気耳の中に欝し或ハ閉或ハ鳴り気欝し痞満し痰盛に咽の中快よからぬあり又厚味を常に食し胃火盛にして両耳聾もの或ハ瘡毒愈て後余毒にて耳聾るあり針灸の全く治すること能はずといへども一二を載す
○耳鳴り耳痛で響き頭にこたへ或ハ目睡りて輒ち神寝がたく昼夜大に苦しんで止ざるにハ葦の筒の長さ五寸ばかりなるを耳の孔に挿はさミ偖索麺の粉と水に練り泥のごとくして彼耳に挿入たる筒の四畔を蜜封し外に出たる筒の頭らに艾を置き灸すること七壮左り痛ときハ右に?右若し痛ときハ左に?べし妙駮あり妙
○耳鳴て遠く聴こと能ハさるにハ心兪に三十壮より五十壮に至る
○耳聾たるには先百会の穴を刺し次に中渚。後谿。下三里。合谷。腕骨。崑崙等に針を久しく留む腎兪に二七十四壮より年に随て壮を爲に至る
○五臓虚乏し心神労役て。体?痩て耳聾たるにハ。腎兪に二十一壮。心兪に三十壮。日を遂ふて治すべし
○諸の虫。若し耳に入バ藍の汁を一滴下してよし。又ハ?の汁を内るもよし
○蚰蜒の耳に入に藍少しばかりを耳の内に捻れば即化し水となる妙
○蜈蚣耳に入にハ鶏の肉を以て耳の辺に置バ自ら出る。又猫の小便を灌バ。即ち出る。猫の牙に生姜を摺り付れバ小便其儘するするものなり

(21)中毒門 どくにあたる

△凡物食して忽ち痛ものハ物毒ありて胃化することあたわず故に胃中に受ずして胃口に溜む滞るときハ痛む多くは吐て止べし又物食して一二時を遇し或ハ一日を経て。臍下臍傍にて疼ものハ物毒ありて胃化セず腸胃に滞り痛なり下して治すべし針灸の能及ぶ所にあらず薬を用べし又河豚の毒に中たるハ毒に酔たるなり血を吐て既に已に死すといへとも必ず葬るべからず四五日を経て蘇るもの多くあり譬バ酒に酔と同じ毒醒れバ蘇生すべし又少く中て心中快々とあしく腹痛セバ急に胆礬の末を湯に拌立呑バ其儘吐逆して愈べし或ハ瓜?もよし
○食毒心下に滞りて疼痛或ハ悶し苦むにハ幽門。通谷の辺より針して逆まに上へ鳩尾に向刺べし忽ち吐す吐物盡て治す
△予先年阿波の州に遊んで河豚の毒に中りて已に死たる人を見るに既に死セり針灸更に駮しなく。?中。湧泉。神闕何の応ずることか有ん。況乎湯液の咽に下づき手術なり。親属相集りて葬を談ず一日一夜を経て遂に棺に斂め柩を曳に至て何か頭微しく顛を見る驚て予をして診せしむ。乃ち心下微陽を覚ふのミ。然ども手 散し口開ひて素のごとし。かくて葬に忍ざれハ更に一日を経に心下の微陽謁ず三日に至りて遂に蘇べきことを得たり後これを語り。彼を聞に是のごときの類。間あり中毒の軽きハ両三日重きハ四五日を過て生を回するもの多しと兄豈卒葬をなすべけんや。

仮名読十四経治法上巻終