鍼灸の概略
東洋医学の特徴
鍼灸は伝統医学でありながら、まだまだ多くの方にとっては馴染みの少ないものかもしれません。東洋医学は現代医学とは異なる整体観や施術体系を持っています。とりわけ鍼灸では経絡(けいらく)と経穴(けいけつ)を重要視しています。
我々のからだには気の流れるルートとして経絡が存在すると考えられています。経絡は体の縦方向を流れている十二の経脈と、経脈を繋ぐように体全体を流れている十五の絡脈に分かれます。経絡は体を流れている川のようなものであると想像してください。経絡には、気血が流れており、臓腑・筋肉・神経・血管・骨組織・皮膚・感覚器などを巡り全身を循環して栄養を与えています。
これは川から水田に水と豊かな栄養を引水していることに似ています。しかし、時に川は氾濫を起こしたり、日照りのために水量が減り流れが悪くなることもあります。また、流れの悪いところにはゴミが溜まったりもするでしょう。この流れの悪くなった状態が病気を生ずる原因となります。そこで、うまく循環できるように指圧や鍼灸で流れをブロックしているものを取り除き流れを回復・改善(自然治癒能力を活性化)します。
腰痛で直接腰に鍼を刺すのではなく、遠く離れた足のツボを利用して痛みを緩和させることが可能であるのも経絡によるものと考えられています。はじめての方はこの方法で痛みが取れるとたいへん不思議に思われるようです。
以外と思われるかもしれませんが、現在の鍼灸学校教育では現代西洋医学の授業が8割以上です。それ故、現代西洋医学的な観点で行う鍼灸師も多くいます。また、鍼灸にはいろいろな流派や方法がありますので、鍼灸法を一口に説明することは大変困難です。○○流はよいと言うよりも多分に施術者の技量に依るところが多く、この世界は一人一派ともいわれています。それゆえ鍼灸院には口コミで来院される方が多いのでしょう。
鍼灸院に来られる方の中には、以前鍼で症状が良くなったからという方が多くいらっしゃいます。その反面、鍼灸はダメ!という方がおられるのも事実です。
流派・学派を越えて、より多くの方に鍼灸の良さを体験していただけることを願っております。
局所か全体か
肩こりや腰痛の場合でも局所だけに鍼灸(標治法)をするのではなく、からだ全体の歪みの調整と合わせて行います。全体療法(本治法)は東洋医学の特徴の一つであり、からだの虚実寒熱の偏在を調整することで、より効果を持続することができ、本来のからだの状態を維持できると考えられています。
譬えて言うなら、局所療法はあたかも溢れている風呂場のお湯を、洗面器で汲み上げているようなものです。溢れないようにするには、蛇口をしめるか、排水溝の流れをよくする必要があります。「木を見て森を見ず」とならないように、全体と局所の両側面からアプローチする必要があるわけです。
一般的な局所療法では痛いところやコリの強いところに鍼を刺して、置鍼(しばらく刺したままに)したり、雀啄(鍼を前後に動かして刺激します)や電気針をしたりします。 短時間で行われていることが多く、筋筋膜由来のコリや痛みに対しては効果が期待できます。
一方、全体療法では脈やお腹、舌を診ながら主として手足のツボを使って全身のバランスを調えます。直接、痛いところやコリの強いところに鍼を刺さなくても症状が寛解することもあります。 もちろん、全体と局所をうまく組み合わせた方が、より効果的です。
電気針
低周波治療器の導子を鍼に置き換えたものですので、現代医学の鍼という側面が強いといえます。もちろん中医学や伝統医学の立場で用いることもあります。筋の緊張緩和や疼痛緩和を目的に使用され、主に病院・接骨院・スポーツ系に多い傾向にあります。
人によっては、この電気刺激は満足感はあるようで、たまらなく気持ちがよいという方もいらっしゃいます。電気鍼は経絡が乱れるから使わないと云う鍼灸師もいますが、症状によっては当鍼灸院でも使用しています。
中国の鍼と日本の鍼
中国も広い国ですので、中国針といってもさまざまで、考え方も施術方法もいろいろとあります。なかなか日本との差を論じるのは難しいですが、そもそも中国では鍼灸師はドクターですので、投薬もできるし、レントゲンやMRI、血液検査などの診断方法も可能です。教科書的には、弁証論治に基づいて診断をして施術をするという流れになります。

近年、中国の医療現場でも西洋化が進んでおり、現代医学的中国針・伝統医学的中国針の対立、その折衷派とさまざまな議論があります。
針に限って言えば、中国では得気(とっき)を重要視していますので、針は太く刺激は強い傾向にあるといえます。刺鍼後30分ほど置鍼(刺入したまま)するのが一般的な施術の流れ(中国の病院研修での印象、左図:天津中医学院)です。
もちろん、これはスタイルの印象であって、卒業したての中医師と老中医では全くことなるわけです。最近は、中国に留学される方も増えているし、学校教育に中医学を採用しているところもありますので、以前ほど明確な線引は難しくなってきています。