筋膜性疼痛症候群(MPS)の鍼(はり)療法
筋膜性疼痛症候群(MPS)について
筋膜性疼痛症候群(Myofascial Pain Syndrome:MPS)とは、あまり聞き慣れない言葉かも知れませんが、筋肉や筋膜などの軟部組織が原因となり痛みやしびれを引き起こす病気として近年注目されています。
レントゲンやMRIなどの画像検査で、骨に何らかの異常がないと鎮痛剤やビタミン剤、湿布などの処方となる場合も多いかもしれません。また、椎間板ヘルニアとか、脊椎管狭窄症などの病名がついたり、老化だからしょうがないなどといわれることもあるでしょう。しかし、骨の画像所見と症状は必ずしも一致しないものも多いということは数十年前から報告がされています。
腰痛の80%は原因不明とされていますが、その多くがこのMPSではないかといわれているのです。筋膜をはじめ脂肪組織や靱帯、腱、髄膜、骨膜など軟部組織を総称してファシア(fascia)といいます。そして、このファシアには刺激に反応するポリモーダル受容器が多く存在しており、痛みを感じると考えられています。
筋肉よりも筋膜に9倍近く存在していますので、ストレッチで伸ばされた感覚は、筋肉ではなく筋膜で感じているということができるかもしれません。
ファシア由来の痛み
それでは、なぜ痛みが出るのでしょうか?
筋肉に繰り返し負荷がかかると微小な損傷が発生します。通常ですとこの痛みは数日程度で自己回復をしますが、さらに繰り返し筋肉に負荷を与えたり、冷えたりすると血行が悪くなります。そして、その部分が痙攣状態になると自己回復ができなくなります。この状態が筋膜性疼痛症候群(MPS)になった状態です。
異常なファシアは超音波装置(エコー)で見ると白く重積したように見えます(下図参照)。この部分は、筋肉の動きも悪くなっている状態です。
このようになる原因として次のようなことが考えられています。
使い過ぎ(Overuse)
スポーツや仕事の中でもよく見ることができます。オーバーユースの状態ですので、休息や使い方を考える必要があります。「特に何もしていない」といわれる方も多いのですが、繰り返し動作の積み重ねでもあります。
家事や掃除をきっちりしないと気がすまない方の手や肩の障害、パソコンのマウスやキーボードの使用、テニスやゴルフによる肘の障害、スマホのやり過ぎによる頚肩の痛みなど
使わな過ぎること(Disuse)
デスクワークや車の運転など長時間同じ姿勢でいたり、慢性的な運動不足など
間違った使い方(Misuse)
無理な姿勢での作業や慣れない動作、不良姿勢(猫背)や足を組んだり、椅子にもたれる姿勢などが慢性的に習慣になっているような状態
代償動作
例えば足首を捻挫して、痛みをかばって足首に体重をかけないように歩いているうちに膝や腰が痛くなってしまうというようなことです。これは、短期間のこともあるし、数年にわたることもあります。
鍼療法について
MPSの痛みについては、下の画像に移っている白い部分をリリースするようなイメージで行います。従来から硬いところや痛みの強い場所に鍼をする圧痛硬結療法がありましたが、痛みのポイントが圧痛硬結の部位から離れたところにあり、関連痛として感じていることもあります。そのため、症状によっては超音波装置(エコー)で観察しながら鍼を行うこともあります。
下図の矢印の部分は、腰部の胸腰筋膜あたりになります。白い部分がリリースされると動きがよくなり、痛みも軽減されます。徒手で行う筋膜リリースでもある程度は緩みますが、鍼の方が即効性があり、持続効果が長いようです。鍼の苦手な方には、手技による筋膜リリースも可能です。
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