肩こりと鍼灸
肩こりとは
平成25年の国民生活基礎調査(厚生労働省)の概況による統計では、性・年齢階級別にみた有訴者率の上位3症状は男性では、第1位は腰痛、第2位は肩こり、第3位は鼻がつまる・鼻汁がでるとなっています。
一方、女性では、第1位が肩こり、第2位は腰痛、第3位が手足の関節が痛むという順序になっており、男女共に肩こりは頻度の高い愁訴となっています。まさに、国民病ということができるでしょう。
「肩こり」とは後頭部から首すじ、頚のつけ根から肩甲骨間部にかけて筋肉が緊張し、重くだるく感じたり、張ったような不快感や鈍痛を伴うような状態をいいます。ひどくなると頭痛を惹起したり、吐き気を催す方もいらっしいます。夜に肩こりがひどくなり嘔吐して、心配になり救急病院にはこばれたという話も時々聞かれます。
「肩こり」は病名ではなく、そのような状態、症状を指しますので、その原因はさまざまです。原因のはっきりとしない本態性の肩こりと二次性の肩こりに大別することができます。また、それぞれが複合的に重なり合っていることもしばしばです。
本態性の肩こり
筋肉疲労や過労、運動不足、不良姿勢、心理的なストレスによる緊張、冷えなど 。
ストレートネックやなで肩、筋力が弱い女性、胸の大きい方なども肩が凝りやすい体型ということができます。
二次性の肩こり
変形性頚椎症、五十肩、腱板炎、胸郭出口症候群、顎関節症、高血圧、低血圧、眼精疲労、不眠、自律神経失調症、無呼吸性症候群、更年期障害、循環器疾患、消化器疾患、呼吸器疾患などさまざまなものがあります。
頚から肩、背部を覆っている僧帽筋が肩こりの代表的な罹患筋といわれていますが、頭部を支えている肩甲挙筋・板状筋・脊柱起立筋・斜角筋・多裂筋など大小様々な筋肉も関与しています。長時間同じ姿勢でのVDT作業やストレスフルな職場環境、車の運転、冷房の使用、運動不足など、昨今の生活スタイルの影響も大きいと言えるでしょう。また、最近普及しているスマホの使用なども肩こりになりやすい姿勢・動作になります。
持続的な筋の緊張や筋疲労は局所的な循環障害や自律神経の乱れを生じ、交感神経系が過緊張となります。その結果として、末梢血管が収縮、欝血や浮腫を生じ、血行が悪くなります。また、このような状態ではファシアの重積が起こり、筋の滑走性も悪くなり、時には痛みを生じることにもなります。
「肩こり」は万病の元ともいわれています。 慢性化させずに定期的に「肩こり」を解消することが肝要です。
その解決方法にはさまざまなものがあります。温泉や入浴、運動や体操、ストレッチ、マッサージ、電気治療器など。病院を受診すると、消炎鎮痛剤や筋弛緩剤、ビタミン剤、湿布などを処方されることがあるかもしれません。
肩こりの改善には鍼灸(はりきゅう)がおススメです!
肩こりの鍼灸
古典的記載
最初に古典文献を少し見てみましょう。以前、ブログ(鶏肋ブログ)にも書きましたが、江戸期の鍼灸書「鍼灸抜萃」には次のような記載があります。関西地方では肩胛骨あたりの部位を「けんびき」と呼ぶようですが、これは痃癖に由来するのかもしれません。
さらに、、。
鍼灸では気血の滞りが痛みや病の原因であると考えています。ここでのポイントは次の2つです。肩背の刺鍼は水平刺(横刺)と皮膚刺絡になります。内容が分かりにくいかもしれませんが、当時から肩背中の凝りや痛みに対して鍼灸術が行われていた様子が伺えます。
肩こりと筋膜(ファシア)
次に、肩胛骨内側の僧帽筋の状態をエコー画像で見てみましょう。
左のスケールは一目盛が1センチになります。上が体表になりますので、深さが1センチぐらいの所に白く光る筋(すじ)が見えると思います。この部分が筋膜(ファシア)になります。重積すると動きが悪くなったり、痛みを発する原因となります。凝りの正体はファシアの重積かもしれません。そこで、この部分を鍼でリリースします。直接患部にアプローチができるところは、マッサージ等の手技療法に比べて優位性があると言えるでしょう。
従来であれば、手で触ったり押したりして痛みや凝りを確認してから鍼を施していたのが、エコーを使用することで視覚的に把握できるようになりました。もちろん、これが鍼による効果のすべてではありませんが、最近のトレンドになります。
また、局所的な凝りや痛みの改善と共にその背後にある誘因についてもアプローチする必要があります。そして、その予防として日常生活を見直すことも必要でしょう。肩こりは身近な症状ではありますが、その誘因は一つではないケースが多いので、慢性的な「肩こり」改善にはいくつかのハードルがあるかもしれません。