月経前症候群(PMS)の鍼灸
月経前症候群(PMS)とは
月経前症候群(PMS)は、女性が排卵後の黄体期に周期的に経験する精神的および身体的な症状をさします。PMSの症状は、月経前、3日~10日にわたって現れ、月経が始まると同時か、2~3日以内に軽快ないしは改善する傾向があります。
毎月、月経の前に現れ、月経開始後には消失することが特徴です。日本においては月経のある女性の約70~80%が月経前に何らかの症状があるといわれています。
メカニズムと症状は多面的で、いくつもの要因が影響し合ってPMSを引き起こしていると考えられます。
月経前症候群(PMS)の原因
ホルモンの変動
PMSの主要な要因は、月経周期の特定の段階での女性ホルモン、特にエストロゲン(卵胞ホルモン)やプロゲステロン(黄体ホルモン)分泌の不均衡です。これらのホルモンの変動が、神経化学的および生理学的な反応を引き起こす可能性があります。
セロトニンの影響
プロゲステロンの分泌量は排卵直後から増加し、月経開始の1週間前あたりから減少します。プロゲステロンの減少は脳内のホルモンや神経伝達物質、セロトニンに影響を与えます。セロトニンの低下は、気分や睡眠、食欲などに影響を与え、PMSの症状を悪化させる可能性があります。
自律神経の影響
交感神経や副交感神経の機能低下やバランスの乱れ、いわゆる自律神経の失調もPMS発症の原因の1つになっていると考えられます。
交感神経は興奮・緊張モード、副交感神経はリラックスモードにさせる働きをもつ神経です。車のアクセルとブレーキに例えるとわかりやすいかもしれません。PMSの患者さんは、月経前に交感神経が活発になり、副交感神経が弱まるといった特徴があります。
心理的な影響
忙しかったり、何らかの悩みを抱えていたり、心身にストレスがかかると症状が出やすいという人もいます。また身体症状ばかりが強く出たり、逆に精神症状のほうが強く出たりなど、人によって症状もさまざまです。
遺伝的要因
遺伝的要因もPMSの発症に影響を与えるという説もあります。家族歴があるとリスクが高まる可能性があります。
月経前症候群(PMS)の症状
PMSの症状は個人差があり、一部の女性は症状が軽度で他の女性は重度の症状を経験することもあります。一般的な症状には以下のものがあります。
精神的・感情的な症状
不安、イライラ、緊張、情緒不安定、怒り、悲しみ、抑うつ感、疲労感、集中力の低下などがあげられます。
身体的症状
乳房の腫れや痛み、頭痛、腹痛、腰痛、関節痛、胃腸障害、下痢、便秘、浮腫、皮膚症状などの身体的な不快感があります。
睡眠障害
睡眠の質が低下し、不眠症や過眠症などが現れることがあります。
食欲変動
甘いものや塩辛いものを摂取したりと、嗜好に変化が生じることがあります。食欲が増減し、体重が増加したり、逆に食欲減退となることもあります。
薬物療法
低用量ピルや低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬は、服用している間は排卵を止めますので、女性ホルモンの変動がなくなり、症状が軽減されます。対処療法としては、鎮痛剤や利尿剤、安定剤、睡眠導入剤などが処方されます。湯液では当帰芍薬散、桂枝茯苓丸、桃核承気湯、抑肝散、加味逍遥散などが多いようです。
日常生活や仕事に支障が出るようだと問題ですが、我慢できるのであれば薬に頼らず過ごしたいものです。
鍼灸療法の考え方
中医学的な分類
鍼灸の古典文献には月経前症候群(PMS)に該当する記載はありません。月経困難症は「痛経」ですが、経行頭痛や経行眩暈などの範疇になるかと思います。婦人科疾患の多くは、肝腎脾の三蔵、三経と衝脈、任脈の変動が関係しています。
気血不足
精神疲労、気力の欠如と怠惰、動悸、不眠症、めまい、血色のない顔色など。気虚は内臓の働きが低下するので精神が弱り、気力がなくなり怠惰になります。血虚は心臓への支えを失い、気力が保てないため動悸や不眠などの症状が現れます。
肝腎陰虚
胸と季肋部の鈍い痛み、ドライアイ、耳鳴りと物忘れ、腰と膝の痛み、不眠症、口と舌の乾燥、胃の不調など。
痰濁上擾
めまい、頭重、胸の圧迫感、顔や目が赤くなる、舌が赤い、躁状態、不眠、動揺、せん妄、精神障害、月経量が少ないなど。
気滞血瘀
乳房の張りと痛み、季肋部の痛み、乳房過敏で拒按、気滞による痛みは場所が定まらない膨張痛、血滞による痛みは場所が定まらない刺すような痛みが特徴です。
施術方法
中医学的な分類(弁証)に対する施術方針(論治)に従って鍼灸を施します。気血不足→益気養血、肝腎陰虚→滋養肝腎、痰濁上擾→化痰通絡、気滞血瘀→行気活血。
専門的な内容になってしまいましたが、証が決まれば、使う経穴(つぼ)は同じような選穴になるはずです。
鍼灸療法では痛みやからだの不調は気血の滞りが大きな原因と考えます。気血の流れを改善するためには、変動している経絡の調整(疏通経絡)を行います。ここでは肝、腎、脾、衝脈、任脈の変動を調整します
これらの全体的な治療とともに、辛い症状に対する局所的な部位への施術を行います。
こちらの記事も参考にしてください。頭痛の鍼灸
家庭でできる施灸法【月経前症候群(PMS)】
施灸のしやすさから選穴すると、中極、三陰交、大衝、足三里などでしょうか、、。
効果には個人差がありますので、1回お灸を施しただけで全てがよくなるわけではありませんが、試してみる価値はあると思います。「灸」は「久(ひさしい)」に「火(ひ)」と書きますので、根気よく続けることが秘訣です。1日1回、月経前2週間頃から月経まで続けてみてください。
こちらの記事も参考にしてください。お灸のすすめ
- 中極
- 三陰交
- 大衝
- 足三里
前正中線上で、臍下4寸、恥骨結合の上縁上1寸。
内踝の上3寸、骨の下の陥凹した部位。
足背の第1、2趾接合部前方の陥凹部。
膝を曲げて、犢鼻から直下に3寸。膝の皿の外側のくぼみから、指4本下、押すと響くところに取る。
セルフケア【月経前症候群(PMS)】
自分のリズム・症状を知る:不安感の軽減とPMSとの付き合い方を学ぶことができます。
ライフスタイルの変更
バランスの良い食事:ビタミンやミネラル、カルシウム、マグネシウムを摂取します。刺激物やカフェイン、アルコール、喫煙を控えます。
睡眠
適度な運動:自ら体を動かすことも大切です。ヨガやピラティス、ジョギングなど継続できる運動を試してみましょう。
リラクセーション:リラックスできる時間を作りましょう。趣味や入浴、マッサージなど
ストレス管理:症状が重い場合には、仕事の負担を軽減することも必要かもしれません。
【参考文献】『医学大辞典』(南山堂)、『鍼灸療法技術ガイドⅡ』(文光堂)、『中医針灸治療のプロセス』東洋学術出版社、『針灸学臨床研究』人民衛生出版社
(2023/10/10)