腰部脊柱管狭窄症の鍼灸療法
腰部脊柱管狭窄症とは
何らかの要因により腰部の脊柱管の内部が狭小化して、そこを通っている神経組織が圧迫されることで、下肢や腰部、臀部がしびれたり、痛みを生じたりします。腰部脊柱管狭窄症の特徴として、間欠性跛行があげられます。腰部脊柱管狭窄症の原因の多くは加齢による骨の変成になりますので、50歳から70歳代までの方に多く、70歳以上の高齢者の50%に見られるとの報告もあります。
間欠性跛行
安静時や歩き始めは症状が出ないのですが、歩いていると徐々に大腿部や臀部、会陰部、下腿部にしびれや強ばり、疼痛が生じてきます。しばらく腰を屈めて休むとまた、歩くことができるようになります。立位よりも自転車や押し車、杖を使用して前かがみの姿勢の方が症状は楽になります。背骨を伸ばす姿勢では神経組織がより圧迫され、血流障害になると考えられています。
神経根が圧迫されることで、その支配領域に疼痛やしびれ、麻痺、感覚異常などの症状が生じると考えられています。障害される部位によって、「馬尾型」、「神経根型」、「混合型」に分類されます。
馬尾型は会陰部や下肢のしびれ感を伴うことが多く、膀胱直腸障害(排泄障害)や下肢の脱力感、麻痺などの症状を呈することがあります。このような症状が疑われる場合は、速やかに整形外科を受診しましょう。
医療機関では重篤な症状でなければ保存療法となるでしょう。薬物療法(消炎鎮痛剤やビタミン剤、湿布薬)やブロック注射、理学療法や運動療法などが行われることが多いようです。
腰部脊柱管狭窄症に対する鍼灸療法
筋緊張や循環障害の改善には鍼灸が有効です。服薬や注射をしてもなかなか症状が改善されないときは、鍼灸をお試しください。鍼灸の基本的な考え方は「坐骨神経痛の鍼灸」と同じです。こちらの記事も参考にしてください。
私見
医療機関でよく処方される薬にはオパルモンや牛車腎気丸などがあります。オパルモンはプロスタグランジン製剤で、血管拡張や血流増加、血小板凝集抑制作用があります。牛車腎気丸は高齢者の排尿障害や陰萎、腰部・下肢のしびれや脱力感、疼痛などの症状に対して処方されます。
腰部脊柱管狭窄症の機序が「脊柱管の内部が狭小化➡神経組織の圧迫➡しびれ・脱力感・痛み」だとすると神経組織の圧迫、その原因である狭小化を解消しないと症状は改善しないはずです。上記薬剤の投与で脊柱管の構造的な変成が果たして変化するのでしょうか。腰部脊柱管狭窄症の症状が保存療法で緩解するとするならば、その症状の原因は骨の変成にあるのではなく、軟部組織(ファシア)の問題と考える方が理にかなっているのではないでしょうか。
腰部脊柱管狭窄症は70歳以上の高齢者の50%に見られるとすると、2人に1人は間欠性跛行があるということになります。はたしてそうでしょうか。
骨の変形による影響が全くないとはいいませんが、腰痛を訴えられる方の多くは筋筋膜など軟部組織が硬くなっていることが少なくありません。その循環の悪くなっている部位を緩めることで、姿勢が良くなり、歩行距離が伸びることもしばしば見られます。症状が10→5に軽減するだけでも日常生活が楽になると思います。是非、お試しください。
「筋膜性疼痛症候群(MPS)」についての記事も参考にしてください。
参考文献:『医学大辞典 第20版』南山堂 、『鍼灸療法技術ガイドⅡ』文光堂
(2017/5/24)