寝違え(首の痛み)の鍼灸
寝違えの概論
「寝違え」は『医学大辞典』に記載がありませんでしたので、疾患名ではなく俗称になるのでしょうか。『広辞苑』には「寝かたが悪かったために、首などが筋ちがいをして痛むこと」とあります。筋ちがいとはまた古い言い方ですが、状態としては一種のこむら返りに近いかもしれません。
寝違えの症状と原因
首から肩にかけての筋肉が強張り、首を動かすことができない症状で、首を動かそうとすると頭や肩にかけて痛みが走ったり、姿勢を変えることも困難になります。睡眠から目が覚めたときに起きやすいので「寝違え」という名称ですが、何かの拍子に振り向いた時、突然、寝違え様症状になることもあります。
ソファーなどにもたれて寝てしまったり、不自然な姿勢、合わないマクラでの睡眠、泥酔したり疲労がたまっている状態での睡眠(眠りが深く、寝返りをしない)ことなどは頚肩周囲の軟部組織の持続的緊張や虚血状態を生じ、筋肉が痙攣したり、強張ったりすると考えられます。
寝違えは急になる印象かもしれませんが、日々の労働(パソコン操作や姿勢、上肢の使い過ぎ)、睡眠不足、長時間のスマホやゲーム操作などによって、慢性的に項背部に疲労が蓄積された状態が下地としてあったのではないかと推測されます。赤ちゃんの寝違えは聞いたことがないでしょう。
鍼灸の効果
寝違えの予後は良好です。数日~1週間ほどで痛みや症状が改善するのが一般的です。筋緊張の緩和、痛みの軽減、可動域の改善、治癒期間の短縮に鍼灸の施術は期待できます。
1週間経過しても症状に変化がない、日に日に症状が悪化する、痛みで眠れない、握力が低下するなどの症状がある場合は、整形外科での精査をお勧めします。
寝違い(首の痛み)の鍼灸
中医学では落枕や頚項傷筋と呼ばれ、一種の単純性頚項硬直と疼痛の病症のことをいいます。その多くは成人によく見られ、老人の場合は頚椎症の影響も指摘されています。加齢的な頚項部の組織の生理的変化や過労の状態に風寒湿邪が乗じると痛みが生じやすいと考えられます。反復的に発症することを特徴とします。
本病の多くの要因は上記と同じく、睡眠時の不適切な姿勢、枕の高さが合わない、長時間にわたる頚部の筋肉の緊張、項背部が風寒に侵される(冷え)などがあげられます。主として督脈、足太陽膀胱経、手太陽小腸経、足少陽胆経の気血が阻滞することで、痛みを生じ(不通則痛)、頚項部の経筋が局部的に痙攣を起こすと考えられています。
鍼灸の取穴例
治則は「袪風散寒」、「舒筋活絡」になります。局所的な取穴と経絡・経筋を考慮した取穴があります。風邪や寒邪を嫌いますので、頚項部位への温灸もよいかもしれません。
『針経玉龍経』
挫枕項強、不能回顧:少商、承奬、後渓穴、委中
『鍼灸治療学』
落枕穴、圧痛点、後渓、懸鐘
『実用針灸臨床弁証論治』
天柱、風池、大椎、肩井、後渓、崑崙、懸鐘、落枕穴
寝違えに関連する経絡と経穴、①風池、②天柱、③肩井、④大椎
自分でできるツボもみ法
寝違えの代表的な経穴(ツボ)、落枕穴と後渓穴を紹介します。
落枕穴(⑤)
【取穴法】手背の第2第3中手骨の間、中手指関節の後側の陥凹部、第2指と第3指がV字になっている根元の部位になります。外労宮ともいいます。
後渓穴(⑥)
【取穴法】拳を握り、第5中手骨頭の後方で、尺骨側の表裏の肌目、骨の際に取ります。
ご家族の方やパートナーにツボを押してもらうのもよいですし、自分一人で行うことも可能です。手指の先端でツボを探り、グリグリとして硬いところや痛みの強い部分を刺激します。ツボを押しながらゆっくりと首を前後左右に動かしてみます。5分ぐらいから始めてみましょう。項背部をホットパックやホッカイロで温めるのもよいでしょう。
【参考文献】『医学大辞典 第20版』南山堂、『漢方用語大辞典』燎原 、『針灸経穴辞典』東洋学術出版社、『中国針灸証治通鍳』青島出版社、『プロメテウス解剖学アトラス』医学書院、『鍼灸療法技術ガイド』文光堂、『実用針灸臨床弁証論治』中医古籍出版社
(2020/7/7)