指圧(Shiatsu)について
指圧とは
皆さんは「指圧」と聞いてどのようなことを連想されますか?
昭和生まれの方は、恐らく浪越徳治郎先生の「指圧の心は母心、押せば命の泉湧く」のフレーズを思い浮かべるのではないでしょうか。テレビにもよくご出演されていたので「指圧」の認知度を高めたという意味でも特に有名ですね。
また、「指圧」は指の圧とも書きますので、母指でグーッと押圧刺激をして「痛(いた)気持ちいい~」という感覚を想像する方がいらっしゃるかもしれません。
指圧は一人一派とも呼ばれれることもあり、基本的な定義はありますがその操作法や考え方にはさまざまなものが存在します。それは指圧が法制化されるにあたって、従来のあん摩・マッサージとは違った用手療法として、古方按摩・導引・活法・整体・カイロプラクティック・オステオパシー・スポンジロセラピーなどの影響も受けながら発展したという経緯にあります。それ故、いまだ完成されたものではなく、新しい理論・方法を取り入れながら時代や環境の変化とともに進歩・変化しているのです。
指圧は免許がいるんですかというご質問がありますが「あん摩マッサージ指圧師」という国家資格になります。免許取得には3年間学校に通い、国家試験に合格しなければなりません。
「指圧」はあんまとマッサージとは異なる手技療法として後に免許に加えたのですが、今になって考えれば「指圧」という名称は操作法を限定してしまうような結果となってしまったのかもしれません。「あん摩・マッサージ・指圧」を一元化して「手技療法師」などとしていれば、今日街に溢れている、○○整体だの××療法などの民間療法と混同されることもなかったでしょう。残念ながら、馴染みのない方にとっては「指圧」も「整体」も同じような印象かもしれませんね。
指圧の定義と理論
定義
指圧療法は柔道の活法、導引、古方のあんま療法より発展した独特の経験施術であるが、大正初期、米国の各種整体療術の学理と手法を吸収して今日に至った手法である。
指圧法とは、徒手で指母、手掌を用い体表の一定部位を押圧して整体の変調を矯正し、健康の維持増進をはかり、または特定の疾病治療に寄与する施術である。
指圧の三大原則
- 垂直圧の原則
- 持続圧の原則
- 集中の原則
指圧を行う時は、皮膚面に対して垂直に力を加えます。
指圧は相手の呼吸を導びきながら一点に圧を加えます。
施術する場合は、精神を集中して行います。
指圧の作用
- 反射作用
- 矯正作用
内臓に異常が生じると関連した体表上に知覚過敏やこり、痛み、筋緊張などが現れます。逆に、この体表上に現れた部位に対して指圧を行うことで、反射作用により内臓の働きを調整することが可能です。
不自然な姿勢や体の使い方、内臓の機能異常により、上下左右前後にからだの歪みを生じます。そして、筋拘縮(凝りや痛み)や血行不良、神経の圧迫などを生じます。指圧を施すことで筋緊張を緩和し、からだのバランスを整え、脊中の歪みを矯正します。
文献にみる指圧理論の相違
ここからは少し専門的な内容となります。
玉井天碧の指圧法
指圧の呼称としては大正時代に玉井天碧の『指圧法』が最初と云われています。指壓療法緒言から一部引用します。文章が硬いですが、広義の手技療法としての基本的な考え方は述べられていると思います。
指壓療法は身体の元基を養ひ、電子の異常を糺し、細胞を構成せる元素の盈缺なく、細胞の生活を健全にし、生理的神経作用の調節を計り、各器官の営為運動を斉整し、健康を増進す。
指壓療法は骨格筋肉及内臓の鍛錬をなし、体格の矯正、体質の改良、抵抗力の強大により、疾病の内因を除き、外因に堪へ、諸病を予防す。
指壓療法は心身の病的状態に適応して施すが故に心身調和せられ、自癒能力を強盛にし、疾病を治癒せしむ。
著者二十年来、之を実地に施し、健康を増進、諸病を予防し、疾病を治癒せしめし者、幾千人に及ぶ、効果確実にして毫も副作用なし、希くば大方の諸士、之を応用せられん事を、著者
玉井天碧は『指圧(療)法』を昭和14年に上梓していますが、昭和3年に『力応用療法 附:指圧法』を福永数馬の名前で出版しています。これを読むと、解剖生理学的な記載が多く、その理論は現代医学に近い考え方に基づいているように思われます。カイロプラクティックやオステオパシー、スポンジロセラピーなどの影響も大きいことが伺えます。
東洋医学的な経絡や気、経穴についてはほとん記載されていませんが、白隠禅師の次のような言葉を引用しています。「古の教えに、腰脚足心気海丹田に力充実するときは、百病も尚除けると」、そして、三大綱領として健康増進・諸病予防・疾病治療をあげています。
改めて目を通してみると、認識していた指圧とは少々異なった印象があります。当時行われていたさまざまな療法を最小公倍数的にまとめたような形で指圧が始まったということもその一因でしょう。指圧法の巻頭の部分を書き出してみましょう。上記の記載よりもより現代医学的な分かりやすい説明となってます。
指圧法の原理、神経機能の調節、循環系統の整理、動力の順応、ホルモン発作の促進、筋肉緊緩の作用、等により、大いに心身の調和を宜しくし、偉大なる治病の能力を発揮するに在り。
田野倉快泉の指圧療法
昭和5年に『無薬医術 指圧療法』が出版されています。一部抜粋します。しかしながら、この時代の表現はスケールが大きいですね。また、よく引用されている書籍に医学博士原榮の『自然療法』があります。これについてはブログに書こうと思っていますので、そちらを参照してください。
指圧療法は一口に云ふと自然医学に立脚し、強弱緩急自由自在霊妙な調節力を有する指掌の技術により、理学的法則主として生理学、解剖学、物理学、心理学等の法則に準拠し、この自然良能作用を保健治病の主体となし、これを保護善導促進し、しかして病根を駆逐し人体をして本然の能らきに復帰せしめ、もって健康を恢復せしむるの現代療法の尖端を行く、科学的根本的の治療法である。