頚部痛(首の痛み)の鍼灸
頚部痛の概論

頚部の凝りや首の痛みの原因はさまざまです。肩こりや肩の痛みの原因が頚部にあることも少なくありません。
ここでは、筋筋膜性由来の頚部痛、頚椎症について紹介します。頚部椎間板ヘルニアやむちうち(外傷性頚部症候群)、石灰沈着性頚部痛、リウマチ、癌性疼痛などの頚部痛については別項で説明します。
筋筋膜性の頚部痛
長時間のデスクワークによる姿勢は肩や首が緊張しやすく、時には首の痛みや頭痛を生じるかもしれません。頚や肩の凝りが慢性化した状態で無理な姿勢で寝たり、不自然な姿勢で活動していると、寝違えを起こすこともあります。
近年、スマホの使い過ぎによると思われる首や肩の凝りや痛みを訴える若い人も増えています。これらは筋筋膜性由来の頚部痛ということができます。ストレス、運動、睡眠、仕事、姿勢、筋力などとの相関も指摘されています。
頚椎症
頚椎症(けいついしょう)は、首の骨(頚椎)やその周辺の構造に変化が起きて、首の痛みや肩こり、手足のしびれなどを引き起こす状態の総称です。
中高年で起こる首の痛みには、頚椎や周囲組織の退行性変化によるものがあります。頚椎症、頚部脊椎症、頚椎骨関節症、頚椎骨軟骨症などと呼ばれています。頚椎症はその特徴的な病態から、関連痛型、神経根症タイプ、脊髄症タイプ、バレ・リュー症候群に分けられます。
加齢による変性
年齢を重ねると、椎間板(骨と骨の間のクッション)がすり減ったり、骨棘(骨のとげ)が形成されたりします。
姿勢不良
長時間のデスクワーク、スマホ操作などで首に負担がかかる姿勢を続けると、頚椎へのストレスが増します。ストレートネックや猫背などの影響も考えられます。
外傷やスポーツの繰り返し動作
首への衝撃や同じ動作の繰り返しにより、頚椎に負担が蓄積されることがあります。
遺伝的要因
構造的に頚椎が弱い体質を持つ人もいます。
頚椎症の主な症状
鍼灸療法の考え方
痛みに関しては庳証の範疇になります。風寒湿などの邪気が凝結し、経絡の流れを滞らせることにより、気血の流れが悪くなり、筋骨関節に栄養が届きにくくなった状態をさします。四肢の関節の痛み、関節の曲げ伸ばしがしずらい、筋力が低下などの症状が現れます。慢性化すると、肝や腎の働きが低下します(肝腎虚弱)。
「不通則痛、通則不痛」(通じざれば則ち痛み、通ずれば則ち痛まず)という原則がありますので、気血の滞りを解消(経絡の疎通)を促すことが鍼灸の施術方針となります。
後背部の経絡でいえば、督脈と手足の太陽経が考えられます。
さらに、可動域検査などから推測して解剖学的な見地から配穴します。各筋肉の作用を整理しておきましょう。
僧帽筋
頭頚部の伸展・頭頚部の側屈・頭頚部の対側回旋
胸鎖乳突筋
下部頚椎の屈曲・上部頚椎と頭部の伸展・頭頚部の側屈・頭頚部の対側回旋
前・中斜角筋
頚部の屈曲・頚部の側屈・第1肋骨の挙上
後斜角筋
頚部の側屈・第2肋骨の挙上
肩甲挙筋
頚部の伸展・頚部の側屈・頭頚部の同側回旋
頭板状筋
頭頚部の伸展・頭頚部の側屈・頭頚部の同側回旋
頚板状筋
頚部の伸展・頚部の側屈・頚部の同側回旋
例えば、後ろを振り向けない、振り向くと痛みが生じるなど、回旋動作が上手くできない場合は、僧帽筋・胸鎖乳突筋・肩甲挙筋・頭板状筋・頚板状筋などに問題があるのではないかと推測します。
セルフケア【頚部の痛み】
姿勢の改善
長時間の座位でのパソコン業務や在宅ワークは首や肩に負担がかかりやすい環境です。意識して環境を整えることがすごく大切です。
長時間のオンライン会議で、スマホやタブレットを手で持ったまま話すのはおすすめできません。両手がフリーになるように、骨伝導ヘッドセットや軽量タイプのものを検討しましょう。
モニターの位置
モニターの位置を「目線の高さ」になるように調節します。ノートPCを直接使うと、自然と下を向いてしまうため、ノートPCスタンド、外付けキーボード、マウスを使って、目線の高さに合わせましょう
椅子
椅子は深く座り、背もたれも有効活用します。背もたれに背中をしっかりつけ、足は床にしっかりつけると姿勢が崩れにくくなります。クッションやタオルを腰に当てて腰のサポートを強化すると、結果的に首も楽になります。腰痛の予防にもなります。
肘の角度は約90度にすると肩はリラックスした状態になります。肩が上がったり力が入った状態でタイピングしないようにキーボードの高さを調整して、肘が自然に曲がる高さにセットしましょう。
照明
照明も意外と大事です。暗いと自然に前かがみになり、首や眼に負担がかかります。デスクライトや自然光をうまく使って、明るい作業環境を意識してみてください。
ストレッチ
長時間のパソコン作業は肩こりや頚部痛の原因となります。立ち上がって首・肩をぐるぐる回したり、ストレッチを軽く行いましょう。可能なら15分ほど横になって休むのも、意外と効果的です。
温める(血流アップ)
夏場でもシャワーだけでなく湯船に浸かり、しっかり温まりましょう。湿布や温熱シートを使うのも効果的です。温熱パッドやレンジで温めるホットピロー、蒸しタオルなどで首をじんわり温めてリラックスしましょう。
寝具
マットレスや枕にも寿命があるようです。起床時に体が痛かったり、強張っているようでしたら寝具の見直しが必要かもしれません。高すぎたり低すぎる枕はおすすめできません。首と肩の間にすき間ができないような、首の自然なカーブが保てる高さが理想です。枕選びは難航するようで、20個持っているがしっくりくるものがないという、枕難民の方もいらっしゃいます。
運動
ウォーキングや軽いストレッチなどで筋肉のこわばりを防ぐ自ら体を動かすことも大切です。ヨガやピラティス、ジョギング、水泳など継続できる運動を試してみましょう。
生活習慣の見直し
ストレスをためないことが大切です。ストレスがかかると交感神経が優位となり、筋肉が緊張しやすくなります。趣味や入浴、マッサージなど、リラックスできる時間を作りましょう。症状がすぐ戻る、慢性的に肩がこるなどの症状がある方は、仕事の負担を軽減することも必要かもしれません。タバコは血流を悪くし、椎間板の変性を早めるといわれています。できれば禁煙をおすすめします。
症状の程度によって適したケア方法も変わるので、「無理をしないこと」「続けられること」が一番大事です。
【参考文献】『医学大辞典』(南山堂)、『鍼灸療法技術ガイドⅡ』(文光堂)、『中医針灸治療のプロセス』東洋学術出版社、『針灸学臨床研究』人民衛生出版社
(2025/4/15)