橈骨神経麻痺(末梢神経損傷)の鍼灸
橈骨神経麻痺の概論
橈骨神経は上腕三頭筋、腕橈骨筋、回外筋、手首・指の伸筋および母指外転筋を支配します。橈骨神経麻痺の特徴的所見は下垂手(drop hand)で、手首の背屈、母指の伸展、その他の中手指節関節の伸展が不能となります。
急性の圧迫性神経障害の代表的な疾患で、代表的な原因は下記の通りです。
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【圧迫性末梢神経障害】末梢神経が外部から、または骨や靭帯などの周囲の構造物によって局所的な圧迫を受けることによって末梢神経の脱髄や軸索の障害が生じることをいいます。
【絞扼性末梢神経障害】手根管や足根管のような狭い部位で締め付けられる圧迫が生じて末梢神経障害が出現するものをさします。
橈骨神経麻痺の好発部位と症状
フローゼのアーケード(①)
尺骨手根伸筋、手指および手関節の伸筋が障害されます。完全な下垂手ではなく、手関節の背屈動作は可能ですが、MP関節の伸展が不可となります。線維性アーチによる絞扼性障害で、後骨間神経症候群とも呼ばれています。
橈骨神経溝(②)
腕橈骨筋、長橈側手根伸筋、尺側手根伸筋、手指および手関節の伸筋が障害されます。手関節の背屈動作は、MP関節の伸展が不可となり、下垂手の肢位となります。母指・示指・中指の背側、手背橈側の感覚障害(しびれや疼痛)がみられます。
腋窩部(③)
上腕三頭筋麻痺、他は上記と同じ
上腕中央部(②)では上腕骨に密着して橈骨神経溝内を走行しています。圧迫されると逃げ場がないので、損傷されやすい部位になります。
エコーで観察すると骨のすぐ近くに位置していくことがわかります。
橈骨神経、正中神経、尺骨神経の特徴的なしびれや違和感などの手掌部の感覚障害の分布
末梢神経には運動神経・感覚神経・自律神経の異なる神経が含まれますので麻痺だけでなく、委縮、感覚障害、血流や栄養障害などを伴うこともあります。
末梢神経損傷の分類(Seddonの分類)
一過性神経伝導障害(neurapraxia)
器質的に問題がないか、髄鞘に軽度の異常が見られる状態です。回復速度は数日~数週間、器質的な異常がないので完全に回復します。正座の後、感覚がなくなったような状態も含みます。
軸索断裂(axonotmesis)
軸索が断裂し、損傷部より末梢にかけての栄養障害、Waller変性が生じます。軸索断裂のみであれば、完全に回復します。回復速度は1~2mm/日ほどです。
神経断裂(neuromesis)
神経変性は完全断裂、神経幹・神経束の不連続、Waller変性が生じます。神経縫合や移植をしないと回復しないレベルです。
橈骨神経麻痺の治療
一過性神経伝導障害や軽度の軸索断裂であれば、保存療法がおこなわれます。
鍼灸の施術
現代医学的アプローチ
鍼灸の施術は血行促進、栄養供給により機能回復を図ることを目的とします。絞扼性障害の場合は、絞扼されている神経の血流の改善、周囲筋群の過緊張の緩和を目的とします。
セダンの分類の一過性神経伝達障害と軽度の軸索断裂が鍼灸の対象となり、ビタミン剤の服用、運動療法の併用が望ましいと考えます。
古典的アプローチ
運動麻痺は「痿証」の範疇となりますが、中風など脳血管障害の後遺症などを主としますので、末梢神経麻痺の場合は虚証や血オ、血痹として考えた方がよいかもしれません。
「痿」とは肢体が委弱し、筋脈が弛緩した病症のことをさします。病態やその原因はさまざまですが、基本原則として、多気多血である陽明経脈を中心に整え、筋肉の働きを調節します。臨床報告では、パルス(低周波鍼通電)療法に関するものが多く見られます。
【参考文献】『医学大辞典 第20版』南山堂、『漢方用語大辞典』燎原 、『針灸経穴辞典』東洋学術出版社、『中国針灸証治通鍳』青島出版社、『プロメテウス解剖学アトラス』医学書院、『鍼灸療法技術ガイド』文光堂、『実用針灸臨床弁証論治』中医古籍出版社、『病気が見えるvol.11(運動器・整形外科)』MEDIC MEDIA
(2020/12/27)