顔面神経麻痺の鍼灸(工事中)
顔面神経麻痺の概論

顔面神経麻痺は、末梢性と中枢性に分類されます。
末梢性顔面神経麻痺
ベル麻痺やハント症候群が代表的なものになります。ベル麻痺は突発的に発症する一側性の表情筋麻痺で、明らかな原因がないものをいいます。ハント症候群は、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)が再活性化して神経炎を生じ、顔面神経麻痺が発症すると考えられています。
末梢性顔面神経麻痺の60~70%がベル麻痺で、10~15%がハント症候群といわれています。
中枢性顔面神経麻痺
脳血管障害などでみられ、前頭筋が侵されないのが特徴となります。
末梢性顔面神経麻痺について
ベル麻痺
ベル麻痺は、一側性の末梢性顔面神経麻痺で、特に明確な原因がない特発性のケースを指します。ある日突然、顔の半分が動かなくなり、表情が作れなくなるのが特徴です。
はっきりした原因は不明ですが、ウイルス感染(特に単純ヘルペスウイルス1型:HSV-1)説が有力視されています。神経が炎症を起こし、浮腫により顔面神経が骨のトンネル(顔面神経管)内で圧迫されると考えられます。
約70〜90%の人が数週間〜数ヶ月で自然回復するといわれています。ステロイドを早期に開始すると、回復率はさらに上がります。一部の人では以下の後遺症が残ることもあります。顔のひきつれ、けいれん、目を閉じると口が動くなどの異常共同運動
症状に気が付いたら、できるだけ早期(72時間以内)の医療機関の受診をお勧めします。予後の回復具合が変わってきます。鍼灸との併用は回復を早めます。
ラムゼイ・ハント症候群
体内に潜伏していた水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)が免疫低下やストレスなどで再活性化し、顔面神経や内耳神経が炎症で腫れ、圧迫すことで、顔面神経麻痺を引き起こします。
ベル麻痺よりも予後はやや悪いとされます。治療開始が遅れると後遺症のリスクが高くなります。顔面のつっぱり感、顔面けいれん、音過敏(特に高音)、帯状疱疹後神経痛(長く残る痛み)、涙を流そうとして口が動くなどの異常共同運動が残ることもあります。
症状に気が付いたら、できるだけ早期(72時間以内)の医療機関の受診をお勧めします。予後の回復具合が変わってきます。鍼灸との併用は回復を早めます。
鍼灸療法の考え方
伝統鍼灸の考え方
中風の後遺症や顔面神経麻痺などでみられる、口と眼がゆがんだ状態を「口眼喎斜(こうがんかしゃ)」といい、顔面神経麻痺は「面癱(めんたん))」に該当します。
鍼灸の理論は紀元前にその基本的な体系が完成されている伝統医学ですので、ウィルスの存在は考慮されていませんが、その機能的側面から考えると矛盾するものではないことがわかります。
末梢性顔面神経麻痺であるベル麻痺は原因不明(ウイルス感染説が有力)、ハント症候群は水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)が免疫低下やストレスなどで再活性化することで、顔面神経麻痺を生じるとしています。体力を消耗したり、抵抗力が低下した状態、過度なストレスにより、免疫機能が低下することで、口唇ヘルペスや帯状疱疹など、神経に潜んでいるウィルスが活性化することはよく知られています。
中医学ではその原因として、過度な疲労・正気不足・脈絡空虚・衛外不固・風寒や風熱の邪が虚に乗じ顔面部の経絡に中(あた)るとしています。
伝統鍼灸の施術法
中医学的な分類(弁証)に対する施術方針(論治)に従って鍼灸を施します。証が決まれば、使う経穴(つぼ)は同じような選穴になるはずです。
鍼灸療法では痛みやからだの不調は気血の滞りが大きな原因と考えます。気血の流れを改善するためには、変動している経絡の調整(疏通経絡)を行います。ここでは足の太陽経筋と足の陽明経筋の変動、陽明・少陽の二経を主として調整します。
これらの全体的な治療とともに、局所的な部位への施術を行います。
代表的な処方
陽白・四白・顴髎・太陽・地倉・頬車・翳風・合谷・阿是穴


現代医学的的鍼灸法の考え方
顔面麻痺の鍼治療セルフケア【顔面神経麻痺】
マッサージ
血流促進
筋肉や神経周囲の血流を良くし、組織の回復を助けます。
筋肉の柔軟性維持
動かない筋肉が硬くなるのを防ぎます。
感覚のリハビリ
顔への刺激により、脳とのつながりを刺激し回復をサポートします。
表情筋のバランス改善
麻痺していない側が過剰に働くのを防ぎ、左右のバランスを整えます。
セルフマッサージのやり方(1日2〜3回がおすすめ)
鏡を見ながら行うと効果的です。無理に動かそうとせず、優しく愛護的に刺激しましょう。入浴時に行うのもおススメです。
額のマッサージ
指2~3本で、眉の上から髪の生え際に向かって軽くなでるように施します。左右3〜5回ずつおこないます。
目のまわり
目の下、目尻を中心に円を描くようにやさしくマッサージしましょう。眼球は圧迫しないように施します。
ほほ・口まわり
リフトするように鼻の横から耳方向に向かってなでます。口角を軽く指で押し上げ、左右差を整えるように施します。
耳のまわり・あごにかけて
リンパの流れに沿って耳の下からあご先に向かってなでていきます。首筋も軽く下に向けてなでるとむくみの改善にもなります。
表情トレーニング(ミラーリハビリ)
鏡を見ながら、以下のような表情をゆっくり、左右対称を意識して行います。
口を「いー」「うー」と動かす/笑顔を作る/目を大きく開ける・閉じる /眉を上げ下げ/麻痺側を手でサポートしながら動かすのも効果的です。
生活習慣の見直し
就寝中やエアコンの風など、顔面部の冷えには注意しましょう。ストレスがかかると交感神経が優位となり、筋肉が緊張しやすくなります。趣味や入浴、マッサージなど、リラックスできる時間を作りましょう。日常の中でも表情を意識して使うことが回復の助けになります。
ストローや小さめのスプーンを使用して、口から食べ物がこぼれないように工夫しましょう。
眼を閉じられない場合は、点眼、眼軟膏、アイパッチなどで角膜の保護が必要です。
症状の程度によって適したケア方法も変わるので、「無理をしないこと」「続けられること」が一番大事です。
【参考文献】『医学大辞典』(南山堂)、『鍼灸療法技術ガイドⅡ』(文光堂)、『中医針灸治療のプロセス』東洋学術出版社、『針灸学臨床研究』人民衛生出版社
(2025/4/20)