一般的にツボといわれるものは腧穴と称し、特に経絡上の腧穴を経穴と呼びます。経穴は正穴と奇穴に分類されます。経穴の総数は時代と共に多少の変化はありますが、現在、WHOでは361穴と定めています。特効穴や新穴などWHOに認定されていない腧穴も多くありますので、全体の総数は不明です。夜空の新たな星を命名するように、現在も新たな腧穴が生まれています。
足三里は代表的なツボである
その中で代表的なツボのといえば多くの鍼灸師が足三里を上げるでしょう。まさに、King of “TSUBO”です。かの松尾芭蕉が足三里にお灸をすえながら旅をしたことは有名です。
足三里の名称の意味
足三里の名称の由来は二つあります。一つは「里」を一寸と解釈するもので、『甲乙経』の「膝の下三寸、骬の外廉に在り」に見られるように、三寸という経穴の位置を表すものです。
二つ目は「里」を「理」と解釈し、調えると考えるものになります。腹部を上中下の三部にわけて、腹部の諸症をまとめて治療を行うことができるとしています。
古典文献の記載
古く中国では腧穴を暗記しやすいように、歌訣・歌賦などが作られました。「四総穴歌」では次のように記載されています。
肚腹三里留(肚腹、三里に留め)
腰背委中求(腰背、委中に求む)
頭項尋列缺(頭項、列缺に尋ね)
面口合谷収(面口、合谷に収む)
『針灸大成』には足三里の主治として以下のようにあります。これを見るとその応用範囲は非常に広いことがうかがえます。また、その書の中で秦承祖は「諸病皆治」と述べています。まさに万病に効くツボといえます。
主胃中寒 心腹脹満 腸鳴 蔵気虚惫 真気不足 腹痛食不下 大便不通 心悶不已 卒心痛 腹有逆気上攻 腰痛不得俯仰 小腸気 水気蛊毒 鬼击 痃廦 四肢満 膝[月行]酸痛 目不明 産婦血晕
足三里の作用
これらを簡単にまとめると次のようになります。
1. 補中益気の作用
中気不足や胃弱、術後、慢性的疾患病などで体力が低下している状態の改善。氣逆を降ろし胃腸の働きを調える働きがあります。強壮作用や食欲増進、養生法としても効果が期待できます。消化機能を高める漢方薬に「補中益気湯」がありますが、鍼の配穴では「足三里・内関・中脘」が相当すると言われています。
2. 鎮痛作用
気滞、血瘀、寒湿、食滞、気虚、血虚等による腹部の痛みに対しての効果が期待できます。
3. 止泄作用
脾胃虚弱や虚寒性、食積などによる下痢に対しての効果が期待できます。
4. 安神作用
心脾両虚による不眠やリラックス効果、痰火や熱を降ろし、意識や眼をはっきりさせる作用が期待できます。
5. 痺症や痿症に対する作用
片麻痺や脚気、腰痛や下肢の痛み、筋肉疲労の改善が期待できます。
まとめ
電気のスイッチを入れると明かりが点灯するように経穴に鍼灸や指圧をしても必ずしも効果があるとは限りません。お灸の大家である深谷先生が述べているように、つぼは効くものではなく、効かすものだからです。ここに、施術者の差が出るのでしょう。
鍼灸の方法にはさまざまなものがあります。奇をてらったもの、秘伝・口伝の類も存在します。このあたりの状況は、現代医学を学んでいる方には理解しずらいかもしれません。
二十数年前、鍼灸学校で最初に刺針した経穴が「足三里」でした。初心に帰って、この誰でも知っている経穴をいかに使いこなすかということが最近のテーマとなっています。
※2016/6/8「鍼灸鶏肋ブログ」の記事を加筆修正しています。