寒灸について
「寒灸」ってどういう意味ですか?
ちょうど昼休み、テレビの制作会社から問い合わせの電話がありました。おそらく、いろいろなところに取材の電話をかけているのでしょう。「寒灸ですか。。?」突然質問されてもなかなかうまく答えられないものです。
先日は「温石」についての問い合わせがあったけど、歴史的背景など即答は難しい。
そもそも寒中にお灸をすえるのは、いつ頃からの風習なのでしょう。
寒灸や二日灸などは季語にもなっているので、江戸時代にはよく見られる光景であったと想像できます。二日灸は陰暦の2月2日、8月2日に灸をすえるもので、無病息災など予防的な理由もあります。主に三里穴が使われていたようです。
一茶の句に「風の子や裸で逃げる寒の灸」、「隠れ家や猫にもすゑる二日灸」があります。
「夏病冬治」の考え方
大寒は太陽黄経300度にあたり、一年の中で最も寒い日とされます。三九から四九の季節でもあり、中国では冬の寒い時期を九の倍数で表すことがあります。下の「九九歌」は中国の季節の移り変わりを表現したものです。
三九とは冬至から九日づつ数えていくと三番目にあたり、ちょうど第十九日から第二十七日になります。また、冬至は24節気の一番目の節であり、一年の始まりという意味もあり、大変重要な日とされています。
【九九歌】
一九二九不出手
三九四九冰上走(三九四九の時期は、氷の上を歩くことができる)
五九和六九沿河看柳
七九河开
八九雁来
九九加一九,耕牛遍地走。
さて、「夏病冬治」ですが、これは中国伝統医学の考え方に基づいています。直訳すると、夏にかかった病は冬に治すという意味になります。
夏に症状が重くなる病の多くは陰が虚して陽が盛んになると考えることができます。そして、冬は封蔵(閉蔵)の時期になり、陰気が高まることによって、夏の病は症状が軽減し、寛解期に入るとされます。それゆえ、この時期の養生が大切であるというわけです。
このへんの説明はちとややこしいかな。。
興味深いことは、単に寒いからお灸をすえて暖をとるということではないということです。伝統医学の知恵はなかな奥が深いのです。
三九灸では神厥、中脘、命門、気海、足三里、三陰交、涌泉などの経穴を使用しています。春先から始まる花粉症の予防にも有効かもしれませんね。
二月二日と八月二日の両日行われる二日灸が中国由来で、二十日灸は一月二十日の小正月に行われた様です。そのような関係で二日灸は関東以西に多く、二十日灸は関東以北に多いなどの地域差があります。
『日本歳時記』巻三には「此月、日を択て灸治すべし。多病なる人は、二月五月八月十一月に灸して、陽気をたすけ、外邪をふせぐべし。此月、三里絶骨に七壮灸して、毒気を洩せば、夏に至て脚気衝黔心の疾なしと、寿養叢書に見えたり。」とあります。
蛇足ですが、 寒灸の由来が「夏病冬治」ではないかということは、一つの推論です。寒い時期は体調を崩しやすいので、お灸をして病気の予防を心がけるということかもしれません。
コロナの感染が不安なこの時期、お灸で免疫力を高めることもセルフケアとしておススメです。
※2015/1/20「鍼灸鶏肋ブログ」の記事を加筆修正しています。