テイスティングをしながら四診(望聞問切)について考えた

ティスティングのプロセス

ワインショップに行くと世界各地のワインが所狭しと並んでいて、どれを選んだらよいのか躊躇したり、レストランではワインリストを見て何を注文したらよいか、迷った経験があるのではないでしょうか。

赤や白、ロゼ、スパークリング、甘口辛口、生産地、予算、店員さんのおすすめ、コマーシャルやネットの記事など、どのような基準でワインを選ばれるでしょうか。

テイスティングの経験とちょっとした知識があれば、好みの1本を選択できるかもしれません。

ドラマや映画の中でソムリエがブラインドテイスティングでワインのシャトーやヴィンテージをあてる場面を観たことがあると思います。そんなことが本当にできるのでしょうか、、?

ヴィンテージまでとはいいませんが、代表的なブドウの種類や産地については、誰でも努力と継続的な練習によって近いところまでいけると思います。

テイスティングの基本は「外観」、「香り」、「味わい」です。それに産地や土壌、気候、ブドウの特徴、製法などの知識を照らし合わせて、総合的に判断していきます。

例えば「香り」は、3段階に分けて分析します。

第1のアロマでは原材料であるブドウの香りで、果実や花・スパイスなどに例えられます。冷涼産地の白であれば、リンゴ、柑橘系フルーツ、白い花など、温暖産地であれば、洋ナシ、バナナ、菩提樹などと表現されます。

第2アロマでは発酵段階によって生まれる香りです。マロラクティック発酵によるミルキーな感じや杏仁豆腐のニュアンス、低温発酵のキャンディや吟醸香など。

第3のアロマは木樽や瓶内熟成による香りで、ヴァニラやローストなど複雑な香りになります。

蘊蓄はここまで。

「鍼灸のブログ」なのに、なぜ、ワインの話と思われた方もいらっしゃるかもしれません。

東洋医学の診察法「四診」の流れとティスティングのプロセスは共通するところが多々あり、いろいろと気づきや発見があったのでシェアしたいと思います。

四診について

鍼灸の施術の流れは診察して、証を決め(弁証)、施術方法を考え(論治)、鍼灸を施します。その診察法は四診と呼ばれ、望・聞・問・切の4種類があります。

望診:視診のことで、クライアントの体型、顔色、姿勢、動き、歩き方、肌の状態、表情、舌の状態など、視覚的に観察できるものをいいます。

聞診:クライアントの話し声や喘鳴などのほかに、体臭や口臭などのにおいも含みます。聴覚と嗅覚により観察できるものになります。

問診:訴えを聞くことで、症状をはじめ、その内容は多岐にわたります。

切診:手を触れて観察を行います。腹部や脈、体表観察など触覚的な領域となります。

私たち鍼灸師は、制度上、血液検査やレントゲン検査などできませんので、五感をフル活用し、さらに経験則や直感を働かせ、総合的に判断し弁証論治を行っています。

知覚の向上がカギを握る

テイスティングは視覚・嗅覚・味覚・触覚、四診では視覚・聴覚・嗅覚・触覚などの能力が求められます。

テイスティングは繊細な情報を受け取りますので、テイスティング試験を行うときは精神的・肉体的な良好な状態で、香辛料や味の濃い飲食物は控え、アルカリ性の歯磨き粉も避けます。

先入観を持たずに主観で行います。ニュートラルな状態で臨むことが大切で、思い込みやバイアスがかかると正確な判断ができなくなります。

テイスティングの練習では、飲み比べて、違いを知ることが大切です。

同じ価格帯のボルドーとブルゴーニュ(ブドウ品種の違い)やシャルドネでもフランス産とニュージーランド産とか(産地にょる違い)などでしょうか。

継続は力なりで、テイスティングの練習を続けていると、香りや味の違いがだんだん分かるようになってくるものです。意識を向けて、集中しないと細かい情報はわかりませんが、修練を積むことで感覚が研ぎ澄まされ、知覚の能力は向上するという実感を得ることができます。

翻って、四診も継続的な努力や精進によって、さらにその精度が高まる可能性を秘めているといえるでしょう。テイスティングを通して、知覚の感覚を鍛えることができるというのは、いまさらながら新たな発見です。

古典文献には荒唐無稽にも思えるような名人や達人の診察法や施術法が記載されていますが、単なるおとぎ話ではなく、そのような世界があるのかもしれないですね。

『扁鵲倉公列伝』から扁鵲の有名なくだりを引用しておきます。(意訳)

扁鵲「殿さま(斉の桓侯)はご病気です。幸い、まだ体表(皮膚と肌肉の間)にとどまっております。治療をしないと、さらに深くなります」
桓侯「余は病気ではない」
「医者というものは金儲け主義で、健康な者まで治療して、功を成そうとする」
五日後、
扁鵲「殿さまのご病気は、血脈にあります。治療をしないと、さらに深くなります」
桓侯「余に病気はない」
さらに、五日後、
扁鵲「殿さまのご病気は、腸と胃のあいだにあります。治療をしないと、さらに深くなります」
桓侯は返答をしなかった
五日後、扁鵲は桓侯を遠くから見て、逃げ去った。桓侯が人をつかわしてその理由を問うと、
扁鵲「病気が体表にあるうちなら、熱湯をかけて治すことができます。血脈にあるうちは、鍼や砭石で治療できます。病気が腸や胃に入ったら、酒醪(しょろう)で治療できます。しかし、病気が骨髓に達してしまったら、医師にはどうすることもできません。いま、病気は骨髄に達し、もはや手の打ちようがありません」
五日後、桓侯は発病し、亡くなった。

扁鵲は長桑君より禁方を授かり、五臓の癥結が見えるようになった(透視能力)といわれていますが、脈診や望診にて診察をしていたようです。この時代、高貴な人の治療を失敗すると死罪になりかねませんので、死生の判断は、死活問題ということになります。