超音波装置と鍼|エコーは魚群探知機のようなものである

まずは、ヘミングウェイの「老人と海 (THE OLD MAN AND THE SEA )」から引用。

彼は水中のロープを垂直に保っておくのが誰より上手かった。この技術によって老人は、全ての 餌を望み通りの深さに正確に配置し、そこを泳ぐ魚を狙うことができるのだった。他の漁師たちは餌が流れに漂うことを気にしないから、一〇〇尋の深さを狙っているつもりが実際の餌は六〇尋の位置にあったりする。だが俺の腕は確かだ、と老人は考えた。(中略)

老人がふと見上げると、あの鳥が、また旋回を始めていた。「魚を見つけたな」彼は声に出して言った。海面を跳ねるトビウオはおらず、小魚が散らばる様子もなかった。が、老人が見ていると、小さなマグロが一匹跳ね上がり、空中で逆さになって頭からまた水に潜った。日光で銀色に輝くそのマグロが水中に消えてしまうと、次から次へとマグロたちが飛び上がり、四方八方に 跳ねまくった。水をかき回し、餌を求めて大きく飛び跳ねる。そして輪を描いて獲物を追い込もうとしていた。(石波杏訳)

青空文庫 http://www.aozora.gr.jp/index.html

現在では広大な海で漁をするには、魚群探知機(ソナー)が欠かせないツールですが、魚探を使用しても釣果は経験や天候、運に左右されることが多いのも事実です。

魚探がない時代であれば、海底の状態は直接覗くことができないので、鳥山やナブラ、漁礁や沈潜、パヤオ、潮の流れや海岸線や地形の変化 、天気や時間、季節等さまざなな要素を考慮して魚の群れを推測することになります。

前置きが長くなりましたが、超音波装置(エコー)は魚群探知機のようなものであると考えると、それを使用する意味が分かりやすいのではないでしょうか。

近年、超音波装置で皮下組織を観察しながら鍼を打つ方法がにわかに注目されています。その利点は、主観的・感覚的であった手技が、客観的・視覚的に捉えることができるようになるということにあります。

これを、魚探で考えでみましょう。

海底から海面までは何十、何百メートルもの幅があります。魚種によって回遊している棚が異なるので、底に生息している魚もいるし、浮いている魚、海面まで上がってくるものもあります。つまり、階層(レイヤー)構造として捉えることが重要なのです。

上記小説の中に「一〇〇尋の深さを狙っているつもりが実際の餌は六〇尋の位置にあったりする。」の記載がある。尋(ひろ)とは両手を広げた長さを指すので1.5m~1.8mになります。100尋は180mぐらいでしょうか。180mにいる魚にそれより浅い108mで餌を仕掛けていても釣れないということです。

これをエコー下における鍼治療に置き換えると、必要な深さに鍼を刺す技術を客観的に観察することができ、共有できるということになります。このことは、臨床への応用ばかりでなく、教育的ツール、また、西洋医学の医師との共通言語となりうる可能性をも秘めているのではないかと考えられます。

今年に入って業界内でも筋膜やファシアが話題になる機会も増えているようですが、数年前までエコーを使ったり、このようなテーマは極々一部の鍼灸師の間でのみ議論がされていました。今後5年、10年先にはあたりまえの技術として認知されていくのではないかと期待をしています。

2016/8/23の「鍼灸鶏肋ブログ」記事を転載